近代将棋1993年9月号、武者野勝巳五段(当時)の「プロ棋界最前線」より。
毎年4人ずつの新四段が誕生し、棋界に新風を巻き起こしている。特に昨今の新人棋士は羽生、屋敷、森内、郷田、深浦などプロ棋士として新参加したその年に、タイトル奪取や棋戦優勝を果たすなど、棋界地図を塗り替えるような有力新人が多いので目が離せない。
今号ではここ1年にデビューした三浦、伊藤能、川上、久保の新四段の活躍にスポットを当ててみた。
骨太な将棋
三浦弘行四段は群馬県出身、西村八段門下の19歳。現在も群馬町に住み、対局の度に新幹線で将棋会館に通っている。奨励会時代からずっとこのリズムを続けており、研究会と最新定跡漬かりの新鋭とは、ずいぶん違った将棋への取り組みをしている。
居飛車が基調だが振り飛車を指さないわけではなく、攻めが基調だが受けにもしぶとさを発揮するという師匠の西村八段に似たタイプ。対局に臨む姿はひたむきで、これが正確な読みを通して三浦将棋を支えているのだろう。デビュー以来これまでの成績は19勝8敗で、7割を超す勝率は立派なもの。
1図は中村修七段との一戦で、いま中村が▲2五歩△同歩▲4五歩と攻めを開始したところ。
先手やや作戦勝ちの局面からの仕掛けだけに、私のような中年になると△5三角などともたれて指したい気もするが、三浦は1図以下、△4五同歩▲3六歩△同歩▲同銀△3五歩▲2五桂(途中図)△3六歩▲3三桂成△同玉▲2一飛成△3七歩成(2図)と、先手の主張をすべて受け入れた。
これでやや後手よしとは読んでも、なかなか元王将の大先輩を相手に指せない順ではある。
三浦の将棋は「読みに支えられた骨太な将棋」という印象がする。まだ勝ち星が一棋戦に集中しての上位進出がないのでさほど注目を浴びていないが、この人は近いうちに大化けする可能性を秘めている楽しみな存在だと思う。
(以下略)
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三浦弘行四段(当時)の、プロ入り半年後の頃の将棋。
相手の注文・主張をすべて受け入れて、それで自分が優勢に立つ。
途中図などは、後手にとって非常に怖そうな局面に見える。
中村修七段(当時)を相手に途中図から△3六歩と銀を取るのは、相当な勇気と読みの裏付けがなければなかなか指せない手だ。
棋譜に漂う、頼もしくなるほどの大胆不敵さ。
三浦弘行四段は、奨励会在籍17年、年齢制限ギリギリの30歳8ヵ月で四段となった伊藤能四段(当時)と同じタイミングでの四段昇段だったため、伊藤能新四段の話題性のワリを食う形で、三浦新四段の記事は意外と少なかった。
武者野勝巳五段(当時)の予言通り、三浦弘行四段はこの3年後、羽生善治七冠を破り、棋聖位を獲得することとなる。
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昨日行われた棋王戦挑戦者決定トーナメントで、三浦弘行九段が永瀬拓矢六段に勝ち、挑戦者決定戦への進出を決めた。
投了図は、持将棋模様の割にはすっきりとした珍しい形。
三浦九段が33点、永瀬六段が21点と駒数で大差がついた。
挑戦者決定戦の相手は、敗者復活組の羽生善治三冠-永瀬拓矢六段戦の勝者。
三浦九段は1勝、敗者復活組の勝者は2連勝すれば挑戦者になれるという挑戦者決定戦の仕組み。
年末にかけて、棋王戦挑戦者決定戦からは目が離せそうにない。