第25回将棋ペンクラブ大賞贈呈式の一日(後編)

22:35

二次会に出ていた、昨年の将棋文化検定2級で1位の成績をとったGさん、将棋ペンクラブ会報で贈呈式のレポートを書くことになるOさん(→Oさんのブログ)と新宿の「あり」へ向かう。

22:50

「あり」では、後藤元気さん、「将棋棋士の名言100」の編集担当だった川上さん、銀杏記者こと君島俊介さんたちが飲んでいた。

文藝春秋の今泉さんもカウンダーで飲んでいた。

少しして、贈呈式に出席していた講談社の矢吹さん、山岸さんが来店。

将棋世界2003年7月号、先崎学八段の「駒落ちのはなし」より。

Round4 下手 今泉亭詰吉

 次のチャレンジャーは、当日のアル中予備軍の集団の中にあって最もアル中に近いという今泉亭詰吉氏(24レーティング1812点)であった。「いやぁ、こないだ大崎さん(いわずと知れた元本誌編集長。作家。高橋和さんをさらって世間をアッと言わせた。アル中)と朝8時まで飲んじゃいましてねえ」などと平気で言う人である。

 氏は大の落語好きにして詰将棋マニアである。シブイ趣味である。これでアル中じゃなければ風流人なのだが、惜しむらくはアル中なのである。

 今泉亭詰吉氏は、文藝春秋から私が出した名著(誰もいってくれないから自分でいうのである)『浮いたり沈んだり』の担当編集者である。

 小学生の頃から強豪として大会に出ていたらしく、羽生、森内、そして私などとも大会で顔を合わせているのが自慢なのだ。

 月日は流れ、あれからはや20年。片や文藝春秋の編集者、そして片や将棋指し。そのふたりが本を作るのだからおもしろいものである。

 「いやぁ最近将棋指してませんし、四枚落ちの下手なんて生まれてこのかた記憶にないです」

 ことばだけ聞くと謙遜しているようだが、今泉亭詰吉の声は地声がデカく、とても自信なさそうには見えない。将棋も自信満々二歩突切り定跡でビシビシ指してくる。

(中略)

 前半で大差がついてしまったものの、今泉亭詰吉氏の追い込みはさすがであった。これに懲りずに、次の本の時もよろしくお願いします。

Round5 下手 山岸金曜日

 5人目は山岸金曜日氏(24レーティング1723点)。金曜日というのは妙な名前だが、講談社から出している雑誌の日本語読みである。氏はそこの机であるらしい。机といっても椅子はない。金曜日の机(デスク)なのである。金曜日というのは、あらゆる芸能人、政治家、スポーツ選手から蛇蝎のように嫌われている雑誌で、そこの机である氏はというと、すべての有名人の方に嫌われる存在なのである。最近は『島ノート』を売りまくって鼻高々で「俺はこれから将棋の本を作って生きる」と口癖のようにいっているが、その夢が現実となった日には、永田町と東京ドームのベンチ裏では拍手がおきるであろう。

 もっとも本人は意外な好人物で、金曜日の机という肩書からは信じられないくらい、誰にでも愛される人である。ただしアル中である。それとなぜか中井広恵さんの大ファンなのである。本人曰く「世の中のどんな女性よりも美しい。中井さんのためなら人生捧げます」。単なるファンというなら分かるが、ここまでいわれると、金曜日のカラーグラビア写真の見過ぎの反動としか思えない。

 さて、アル中去ってまたアル中である。

 アル中とは飲んだ方が頭が冴えるヒトなのである。私は飲ませ作戦が失敗したことに気がついた。

(中略)

 飛車を縦横に使う、見事な勝利であった。氏には、すべての有名人のためにも、ますます仕事よりも将棋に打ち込まれることを願ってやまない。

(中略)

Round7 下手 ジャックダニエル矢吹

 神の登場に場内はどよめく。

 「おお神だ」 「神が来た」

 神は成績表を一瞥して「なんだ山岸、お前ホントに勝ったのか。今泉、だらしないな」と威厳ある声で周りの人間にことばをかける。

 ジャックダニエル矢吹。講談社の彼は、よく分からないがそこそこ偉い人で、名著(2冊ともエライ賞を取ったらしいからこういうのである)『聖の青春』『将棋の子』の担当編集者でもある。村山聖という人間がいなかったらもちろん『聖の青春』はなかった。大崎善生という人間がいなくてもなかった。しかし、このジャックダニエル矢吹氏がいなくてもあの本は世に出なかったのである。そんなスゴイ人なのだが、なぜか社内では最近ダニエル矢吹と呼ばれているらしい。どこからどう見ても日本男子の氏がなんでダニエルなのかさっぱり分からないが、酒呑みである氏にとって、ダニエルといえば、やはりジャックダニエルではないだろうか、ということなのである。

 ジャックダニエル矢吹氏がなぜ四枚落ちの神様なのか。それはひとえに氏のプロとの対戦数の多さからくる。

(中略)

 局後ジャックダニエル矢吹氏は「分かっていたんだけどなあ、なんで銀、上がっちゃったんだろうなあ」とボヤイた。

 酒、である。恐るべきは酒のなせる技であった。神の名を持つ氏にしても、酒には勝てなかったのだ。私の、皆に飲ませてベロベロにさせて勝つというシブイ秘策は、こうして、外で飲んで来た氏をやっつけることで、思わぬ成功を果たしたのであった。

 以下はボロボロになってしまったので、神様を汚す棋譜は載せずにおく。局後もさらに酔っ払いながら、ジャックダニエル矢吹氏は熱く四枚落ちを語るのであった。今、日本で一番四枚落ちに熱い男は、こうしてアルコールの海に沈没した。

23:00

今泉さん、山岸さん、矢吹さんとも、「あり」の初代ママの頃から常連だ。

今泉さんには、一昨年の将棋ペンクラブ大賞贈呈式に出席いただいている。

矢吹さんは、子供将棋教室を主宰している。

山岸さんは、将棋ペンクラブ大賞を過去2回受賞しており、最近では前記NHK杯戦決勝の観戦記、現代ビジネスで「人間対コンピュータ将棋」頂上決戦の真実を書いている。

あれは2005年のこと。その年の将棋ペンクラブ大賞一般部門の大賞が中井広恵女流六段の『鏡花水月』、佳作(現在の優秀賞)が山岸さんの『盤上のトリビア』だった。贈呈式の壇上では、同じ一般部門なので、山岸さんは中井広恵女流六段の隣、写真も隣で写ることになる。山岸さんは後に、「賞を受賞したこと以上に、中井女流六段の隣にいれたことが嬉しかった。い、いや、冗談ですけどね」と語っているが、どうも冗談だけでもないような感じがした。

23:50

矢吹さん、山岸さん、今泉さんはカウンター、後藤さんたちはボックス席、私達は後藤さんたちの前のカウンターに座っていたが、山岸さんが、後藤さんに飛車落ちで挑戦を申し出た。

後藤さんは元・奨励会。快く挑戦を受けた。

どうやら山岸さんは飛車落ち下手で独創的な戦法を編み出したようで、それを試してみたいということだった。

私達も観戦した。

私も酔っ払っていたので詳細は忘れてしまったが、山岸さんの新戦法はユニークかつ説得力のあるもので、1局目は敗れたものの、2局目は勝ったと記憶している。

24:10

終電がなくなるということでOさんが先に帰る。

後で聞くと、東京駅から先の電車が終電で呆然としたとのこと。

24:50

後藤-山岸戦は3局目の最中。

私も2日後までにやらなければならないことがあったので、名残惜しいが帰ることにした。

Gさんも一緒。

終電に間に合うかどうか微妙な時間だったが、やはり終電には微妙に間に合わなかった。

タクシーに乗りながら、後藤さんと山岸さんの対局は何局目まで続くのだろうと思った。