中村修七段(当時)「後手番二手目の可能性(4)・・・△7四歩編」

将棋世界1993年9月号、中村修七段(当時)の16ページ講座「後手番二手目の可能性」より。

『△7四歩』

 初手▲7六歩に反応する様に△7四歩(29図)。正直言って2手目△3二飛同様、成立しないと思っていました。

 ところが研究してみると意外と大変、かなり有力とさえ感じてきました。

 居飛車のまま、8筋を伸ばして飛車先交換は3手かかります。そして△7四歩から袖飛車での歩交換も同じ3手です。

 飛車の位置によるマイナスが生じなければ成立するはずです。

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29図以下の指し手

▲2六歩△7二飛▲2五歩△3四歩(30図)

 通常の8筋を伸ばした同形では、▲7八金△3二金の手順を踏んでから飛車先歩交換になりますが、少し形の違う30図で▲2四歩と行くとどうなるのでしょうか。

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30図以下の指し手

▲2四歩△同歩▲同飛△8八角成▲同銀△3三角▲2八飛△2六歩(31図)

 2手目△5四歩作戦の時に示した変化と同じです。

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 △7四歩と突いてある31図は、先手に何か手がありそうです。二つほど調べてみましょう。まずは▲4六角。対して△8二銀と受けてくれれば▲7八金△2二飛▲2四歩以下先手良し。

 そこで受けずに△2七歩成▲同飛△8八角成▲9一角成△8九馬と強く攻め合います。この変化は少し後手が指せそうです。続いて二つ目は▲9五角の王手。対して△6二銀などでは▲7八金△4四角▲7七角として、飛車走りが実現すれば先手良しです。角打ちの王手には△7三桂の一手。以下▲7八金△9四歩▲8六角△4四角などで、どうもハッキリしません。

 先手も自信がなければ、30図で▲2四歩とは指せないでしょう。

 やはり▲7八金は必要な一手です。

30図以下の指し手

▲7八金△3二金▲2四歩△同歩▲同飛△7五歩▲同歩△同飛(32図)

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 金を上がれば32図までは自然な進行です。

 ここで、一般に指されている同形の33図とよく比べてみて下さい。

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 飛車の位置の違いによって変化は無限です。

 例えば33図は▲3四飛と横歩を取りますが、32図で同じ事をすると△8八角成でおしまいになります。

 しかし、どうしても横歩を取って有利を主張したいとするならば、32図から▲2二角成△同銀▲3四飛と進めます。

 ところが以下△3三桂▲3六飛△2七角▲5六飛△4五角成▲5三飛成△5二歩(34図)などの変化は、とても先手自信の持てる変化とは思えません。

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 先手を何とか良くするために、少し前に戻ってみましょう。

 △7五歩と歩をぶつけられた時、取る一手とは限りません。8筋からの場合は歩成りがあるため手抜けませんが、7筋の場合は、△7六歩と取り込まれてもすぐには厳しくないのです。

 30図まで戻ります。

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30図以下の指し手

▲7八金△3二金▲2四歩△同歩▲同飛△7五歩▲3四飛△7六歩▲7三歩△同桂▲2二角成△同銀▲7四歩△6五桂(35図)

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 △7五歩の突っ掛けを無視して横歩を取ります。以下、互いに勢いのまま進めると、とても一本道とは思えませんが35図になります。ここで先手にいろいろと手があります。順に説明しましょう。

 第一感は▲7三歩成。△7三同飛とは取れません(▲3二飛成がある)から△9五角と打ちます。以下▲7七桂△4二飛▲3五飛△6四歩▲9六歩(参考1図)で形勢不明。

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  次は角打ちを消して逆に(35図から)▲9五角。以下△4一玉▲7三歩成△5一角▲7四飛△9四歩(参考2図)でこれも難解です。

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 最後は(35図から)直接▲7三角。以下△4二玉▲9一角成△3三銀▲3五飛△7七歩成▲同桂△同桂成▲同金△7四飛(参考3図)で香損ながら後手も指せます。

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 △7五歩を手抜いて攻められる事は後手にとって最も怖いところです。しかし、一番激しい変化でも後手ハッキリ悪くなる順は見つかりませんでした。2手目△7四歩はかなり優秀な作戦だと思いました。

 いかがだったでしょうか。

 後手番で乱戦へと導くちょっと変わった作戦をいくつか見てもらいました。

 いずれも神経を使う力将棋となりますが、定跡などない未知の世界に入りますので、本当の実力が試される事になるでしょう。将棋には開発されていない指し方がまだまだあると思います。自分なりに工夫を加え、新しい指し方にチャレンジして下さい。

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中村修七段(当時)は、この記事の原稿を書き始める直前に、自らが開発した二手目△7四歩戦法を対米長邦雄名人戦で採用し、92手で快勝している。(参考2図がその時に現れた局面)

また、中村修九段は、将棋世界2010年4月号の付録で「2手目△7四歩の世界」を執筆している。

現代にも生きる二手目△7四歩戦法。

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初手▲3六歩は、先崎学五段(当時)や林葉直子女流王将(当時)が1990年代初頭に指しており、2006年には渡辺明竜王(当時)も指している。

NHK杯戦決勝対丸山九段戦。(渡辺明ブログ)

初手▲3六歩と二手目△7四歩は、狙いが微妙に変わってくるので、ほとんど別の戦法と言って良いのだろう。

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昭和の頃なら、「中村流袖飛車」、「不思議流袖飛車」というようなネーミングとなったのだろうが、やはり「二手目△7四歩」のほうが中村修九段らしい神秘性、不思議性が表現されていてなかなか良いと思う。