佐藤康光竜王(当時)が実現した東京ドーム草野球

将棋世界1994年7月号、中川大輔五段(当時)のリレーエッセイ「待ったが許されるならば……」より。

 我ら草野球人にとっての夢と言えば、やはり一度でいいから東京ドームでの試合だろう。

 ところがそれが夢ではなくなった。

 野球部員の一人である佐藤康光竜王の「竜王奪取記念試合」という形で実現した。もちろん佐藤竜王のポケットマネーで、である。

 おそらく「キングス」設立以来の大イベントだろう。

 関東の棋士と奨励会員で結成されている野球チーム「キングス」。

 入部してからもう6年になるが、入部理由は何かスポーツを、という程度のものだった。しかし気がつくと、いつの間にか生活の一部のまでなっていた。

 野球の経験のある方なら分かると思うが、草野球には不思議な魅力がある。言葉にするのは難しいが、とにかく面白い。

 私は練習日や試合の日が楽しみになった。

 当時、キングスの監督は中田宏樹六段。この中田監督のモットーが”全員野球”だった。プロ野球ではないのだから、勝ち負けにこだわらず、やる気のある人はどんどん試合に出していた。

 私は肩にだけは自信があったので、ぜひ三塁を、と希望した。そしてそのまま私のポジションは三塁手に決まった。今考えると私は中田監督にはずいぶん可愛がられたと思う。エラーが続いても代えられたという記憶はない。

 習うより慣れろ、とはよく言ったもので、試合を数多くこなしているうちに、少しずつだが自信がついてきた。自分の前に打球が来れば全部アウトになる、と本気で思っていた頃もあった。

 ある年の忘年会で、中田監督が、

 「監督を辞めて、一選手としてプレーしたい」

 という意味のことを言った。

 草野球の監督というのは、思ったより大変らしく、相手チームとの連絡や、試合前に、どこで誰を使うかなど考えたり、それでも試合が読み筋通り進むとは限らず、とても自分のプレーに集中できない。

 これは野球部内を見回す、いい機会だった。中田さん一人に任せず、仕事を皆に分担するようになった。そして中田さんの後の監督は、比較的出席率がよく、年齢的にもちょうどいい、ということで私が務めることになった。

 この年は新旧が入れ代わった年だった。ベテランの選手たちが引退し、代わりに若い棋士や奨励会員が入部した。

 その新人たちを、自分が入部したときと同じように試合に使ってみたいと思ったのも、監督を引き受けた理由のひとつだった。そして「キングス」というチームに愛着が湧いていた。

 夢の一戦、東京ドームでの対戦相手は連盟職員チーム「バッカス」。

 バッカスは、キングスの相手の常連で、お互いに自分達の方が強いと思っている。

 当日、両チーム一緒にグラウンド入りしたのだが、一同が驚いたのが、グラウンドの美しさだった。人工芝の青さが素晴らしい。緑のじゅうたんの上で野球をするような感じがした。

 佐藤竜王の始球式を合図に、夢の一戦が始まった。

 試合は、前半四回まで6対0でバッカスに大きくリードを許していた。キングスは毎回のようにランナーを出しながら無得点。途中、佐藤選手のレフトオーバー性の当たりをダイビングキャッチされるという好守備などもあり、苦戦していた。

 流れが変わったのが五回から。まずヒットやランニング・ホームランなどで3点を返すと、さらに六回も3点を取り、一気に同点。

 七回には走者を一人おいて、森内選手が、得意の悪球打ちでレフトオーバーのランニング・ホームラン。逆転に成功した。キングス得意の集中打である。

 四回以降はキングス投手陣も落ち着きを取り戻し、最終回まで2点に抑えた。

 結局、キングスが、9対8で辛勝した。

 久々にエキサイティングな好ゲームだった。おそらく全選手とも満足のいくプレーだったと思う。

 そして最後は全員で記念写真。

 こうして夢のような一戦が終わった。

 「キングス」の実力は、まだ初級の域を脱していないが、これからのキングスは一試合ごとに少しずつだが強くなっていくと思う。

 キングスの伝統である”全員野球”を実践していき、新人たちや、あるいはこれから入部してくる部員たちを育てていきたい。

 そして私自身は、グラウンドに出ている時は、いつまでもやんちゃ坊主でいたい。三十、四十代になっても、少年のような気持ちを失わずに野球を続けて行きたいと思う……。

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東京ドームでの草野球、とても気持ちが良かったことだろう。

森内選手得意の悪球打ちというのが印象的だ。

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東京ドームで草野球をする際の料金表を調べてみた。

平日の昼間(2時間20分)で35万円、平日夜・土日祝昼が45万円、土日祝夜が55万円、オールナイトが80万円。オプションでオーロラビジョンを使う場合は1試合14万円。

観客は50名までグラウンドで観戦することができるが、50名以上の時はスタンドを使用することになり100名までのスタンド使用料が3万円、200名までが5万円、500名までが10万円。

東京ドームで草野球(東京ドームシティホームページ)

仮に、キングス現役・OB総参加の野球の試合を土曜日か日曜日昼間の東京ドームでやったとして、将棋ファンは200人は集まるだろう。

女性将棋ファンは、大声で棋士に声援を送ることができる。

原価は45万円+14万円+5万円=64万円。

諸経費は別としてこれらの費用を入場料でまかなうとした場合、一人当たりの入場料は3,200円。

プロ棋士参加とはいえ草野球の入場料としては高い感じがするので、入場料1,500円にするには観客動員数がどれくらい必要か計算をしてみた。

(45万円+14万円+10万円)/1500=460人

さすがに460人は難しいかもしれない。

オーロラビジョンを使わなければ20%ほど原価は低減されるが、やはり電光掲示板に棋士の名前が表示されるのは見てみたいところ。

実況は辛口の千葉涼子女流四段、解説は木村一基八段が良いと思う。

・・・というか、東京ドームにこだわらず、もっと違う場所で試合をすればいいという話だが。

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昨年の11月と今年の3月に、将棋連盟チーム「キングス」と、作家の逢坂剛さんが率いる出版関係者のチーム「ミステリーズ」との試合が行われており、その時の模様が田丸昇九段のブログに書かれている。

11月の試合の時には江夏豊さんも応援に駆けつけてくれている。

将棋連盟チームと作家・逢坂剛さんチームとの草野球の試合で10 年ぶりに参加(と金横歩き)

このような試合を一度見に行ってみたいものだ。

将棋マガジン1994年8月号グラビアに掲載された当日の写真

写真: DSC_0070

<キングス関連の記事>

将棋連盟野球部事始め

将棋連盟野球部員列伝(1991年版)

棋士たちの野球大会

佐藤康光五段(当時)の情熱

「正義のデビルがやってきた」

藤井猛四段(当時)、打率0.167

「佐藤康光竜王(当時)が実現した東京ドーム草野球」への2件のフィードバック

  1. 西上心太です。
    少し事実誤認が。
    ある作家事務所のスタッフが参加しているチームが、何度かキングズと試合をしており、その縁である出版社の編集者がお膳立てをしたのです。たしか。その編集者が、昔スポーツ誌にいたため、古くから江夏さんと知合いで、逢坂さんがタイガースファンということもあり、おいでいただくことができたわけです。
    わたしは、相手がキングスと決まったと知ったので、メンバーやその実力を探るために(笑)、湯川博士さんに伺ったのです。もっとも湯川さんは、いまのキングスのことはほとんどご存じじゃありませんでした。

  2. 西上さん
    コメントありがとうございました。訂正しておきました。

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