将棋世界1994年7月号、窪田義行四段(当時)の16ページ講座「相振り飛車-居振のはざまで」より。
皆様は日頃「相振り」についてどうお考えですか?「振り飛車党だから当然やってるよ」なんて方もいれば「居飛車党だけど結構好きだな」「振り飛車党だからやる気がしない」とおっしゃる方もいるかもしれません。
私の場合、居飛車一筋のつもりだった昔から、後手番で角道を止められると△3五歩と突っ張っていたものです。今となっては「当然やってるよ」の側なのですが・・・。
本講座では、相振り飛車の性質―居飛車相掛かりや矢倉の風味を持ってはいるが振り飛車らしさが顔を覗かせる―に触れつつ、基本形を主とし(残念な事に将世を購読していない)ご棋友が眼をむく珍型も取り上げていきます。
(中略)
先手首尾よく二歩を換え、頃合いを見て進撃してきそうです。例えば△2五歩
▲7五銀△4四銀にすぐ▲6四歩△同歩▲8六角とこられても後手今一つ。
しかし、8図で「矢倉感覚の攻めはないか」と捜す気になりさえすれば、有力な攻め筋に気付かれるかと思います。
8図以下の指し手
△4六歩▲同歩△1五歩▲同歩△1七歩▲同銀△同角成▲同香△8五銀(9図)
銀も含む3枚の守りに体当りする△1五歩の攻め筋がありました(△4六歩はおまじない)。端攻めそのものは居振対抗で実によく見受けられますが、銀がいてさえ強襲するのはかなり矢倉的。先手は不思議がりつつ銀で取りましたが、斬って落とされ△8五銀と打たれて蒼くなります。以下▲7五飛の一手に△7四銀▲7六飛△8五銀と千日手を狙われてしまうのです。補足しますと、△1七歩を▲同香なら△2五桂▲1六香と利かして△1五香▲同香△3六歩と端への旋回含みで後手好調。また、「千日手狙いなんざ出来るかい」という硬派の方には、二歩突き捨てから単に△2五桂と跳ね、▲2六歩△同角▲2七銀の強防にも△5三角▲2六歩△1八歩▲同銀△1五香(参考E図)と先手の飛車を攻める含みで手が続く事を付記しておきます。
以上で、「早めに無双に組んだ場合、後手△5四歩~△5三角が有力」と結論して、これもどちらかと言うと柔軟な早めに2筋を突き超す型に入ります。
(中略)
次はあくまでも先手が角道を活かす型を取り上げる事とします。
初手からの指し手
▲7六歩△3四歩▲6八飛△3五歩▲4八玉△3二飛▲2二角成△同銀▲6五角△3六歩(22図)
先手3手目に▲6八飛と振ります。実は私の得意技で、相手の相振り時の選択を減らしている意味があります。後手がなおも相振りなら△3五歩の一手。△5四歩は▲2二角成△同飛(銀)▲5三角で馬を作られややつまらなく、△4四歩止めも追従に留まっている感があります。▲4八玉△3二飛に(実は無理筋ですが)角交換から▲6五角と挑戦!発止と後手△3六歩と返し、どうなるか……。
22図以下の指し手
▲3八金△3七歩成▲同金△3六歩▲4六金△1五角▲4九玉△3七歩成▲4三角成△2七と▲3八歩(23図)
△5五角が含みの歩突きに先手困った局面ですが、▲3八金の受けが曲者。成って▲同金に△5五角は▲6六歩で大した効果がなく、本譜はと金をこさえて後手断然良しと思いきや▲3八歩と受けられて首を捻る事になります。(△2七とでいきなり△3六と引きは▲3二馬△同金▲3六金と取られ、△5五角にも▲4五飛の返し技がある)。と金を活かすには△2六と引き位ですが、▲2七歩△3六と(△同とは▲1六馬でまずい)▲同金△同飛▲2五馬△3三角(△4八歩)と派手に叩き合って形勢不明です。と書いて「無理筋ではなかったの?」と突っ込みが入りそうですので種明かしをします。
△3七歩成▲同金となってついつい歩を打ちたくなるところですが、じっと△4二金上がりが渋い。角を泣かさない様▲8三角成と飛び込みますが、悠々△3六歩からと金作りにいけば後手有利です。
戻って、▲4八玉△3二飛の時▲2八銀と受けておけば、先の▲6五歩突き越し型と大差なくなりますので、互角以上のご棋友にはそうすべきでしょう。
(以下略)
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この当時、相振り飛車に関する著書はまだ少なく、非常に貴重な相振り飛車講座だったと言える。
内容的にも、序盤の基本中の基本から、ここで紹介している派生形まで、充実したものとなっている。
独特の表現方法など、窪田義行六段らしさが随所に現れているところも嬉しい。
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22図にあるように、▲7六歩△3四歩▲6八飛と先手に指されると、△3五歩~△3二飛の後の▲6五角がイヤなので、この形の後手番の時は、石田流が大好きな私も、さすがに不承不承、石田流ではない振り飛車や居飛車で対抗したりしてよく負けている。
しかし、この講座を読んで、普通に石田流を目指しても構わないことがわかる。
これは、今回初めて知ったことで、個人的にとても嬉しい。
8図からの後手の攻め方もなかなか気が付かないもので、とても参考になる。
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居飛車と振り飛車の対抗形のことを”居振”と書かれているが、これは窪田義行四段(当時)の造語なのだろうか、あるいは当時の若手棋士の間では一般的な用語なのか。新鮮な言葉に感じられる。