羽生善治五冠(当時)と読み筋の合う棋士、合わない棋士

将棋世界1994年11月号、先崎学六段(当時)解説、記・野口健二さんの第35期王位戦〔羽生善治王位-郷田真隆五段〕第6局「妥協なき戦い」より。

王位戦第6局。将棋マガジン1996年11月号より、撮影は中野英伴さん。

王位戦第6局。将棋マガジン1996年11月号より、撮影は中野英伴さん。

―前期のリターンマッチとなった羽生-郷田戦ですが、同世代の先崎六段は両者をどのようにご覧になっていますか。

 郷田さんは、前のことを引きずる性格でなく、常に前向きにものを考えるところがあります。ですから、タイトルを取られた後また出てくるのは、得意な分野でね。去年は、夏前くらいから精神的に迷っているところがありました。郷田さんは迷うとロクなことにならない。長い付き合いでよく知ってるんです。今年はそういうところが全然ないので、いい勝負になると思いました。

 この二人は、将棋のタイプが非常によく似てて、妥協をしない。その代わりリスキーなところがあります。お互いよく読んで前に踏み込むタイプですが、羽生さんの方が読み筋の選択肢が少し広いですね。郷田さんは、形に馴染んで深く読む、つまり先入観を持って読み筋に臨む。

 似ていると、呼吸が合っていい将棋になります。この二人は、たぶん相手がどこで考えてくるか分かってると思います。それで序盤で大長考して、終盤の短距離勝負になる。ツール・ド・フランスのゴールスプリントみたいに。残り1時間を切った後の短距離勝負、そこに自信があるから序盤で湯水のように時間を使える。ですから、この二人が対戦すると逆転しにくい。これがタイプの違う人だと、読み筋が合わないから逆転する。例えば、森内さんがどちらかの立場なら、もっとどこかで粘ることになるでしょうね。誤解されやすいのですが、優勢な時に粘るという指し方もある。踏み込んでいかない、つまりリスクを負わない。

―安全勝ちを目指すということですか。

 ええ、結果的に安全じゃないことも多いけど、一歩深く踏み込むとそれだけリスキーですから。この二人は、今そこに自信を持って指しているからいい棋譜が生まれるということですね。

(以下略)

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1994年の羽生将棋と郷田将棋と森内将棋の違い。

非常にわかりやすく、かつ鋭い切り口。

先崎学六段(当時)の解説が感動的だ。

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読み筋が合う、合わない、ということでは渡辺明竜王(当時)が2005年に故・池崎和記さんに語った話がある。

渡辺竜王にとって、その当時、最も読み筋の合わない棋士は山崎隆之六段(当時)だったという。

「棋士の中で一番読み筋が合わない人です」

読み筋が合う、合わない。

非常に興味深く、面白そうな世界だ。