「どうも行方君はボクに喧嘩を売ってるとしか思えないね」

将棋世界1995年1月号、河口俊彦六段(当時)の「新・対局日誌」より。

 夜になると控え室がにぎわい、継ぎ盤が二つになった。

 その一方に小林五段が座り、今日の将棋を片っぱしから並べている。そのうち、中村八段対行方四段戦があらわれた。

 中村君も行方君もいるので、先崎君が身を乗り出し「ちょっと待ってください」と声をかけ、盤上の銀を持って「中村さん、こう指すもんじゃないですかね」と言った。

対日誌199501123

 16図で△3四銀と手を渡すのがよい、という意味。中村君は「なるほど、それがよかったか」とうなずいた。先崎君がちょっと得意になった瞬間、隅の方から小さな声が聞こえた。

 「へえ、そうですかね。ボクは▲3四歩と叩こうと思っていた」

 先崎君が声のした方を見た。

 「どうも行方君はボクに喧嘩を売ってるとしか思えないね」

 みんなクスクス笑っている。20年前の才気ある若者は、いつもこんな会話をしていた。

 16図の解説はあまりに専門的になるのでどうかと思うが、△3四銀は、次に△4五銀から△5四銀引と取るのが味がよい。常識的には、16図では△3一玉と手渡しする。そのときは、先手から▲3四歩と叩くのが筋になる。行方君はわざと省略して先のことを言ったのである。

(以下略)

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「あまりに専門的になるのでどうかと思うが」と書かれているように、16図から△3一玉のとき、▲6四銀ならどうなるのか、△3一玉に▲3四歩の後の変化はどのようになるのか、など分からない部分が多いが、それほどアマチュアには理解が難しい変化なのだろう。奥が深い。

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その後の河口俊彦七段の「新・対局日誌」によると、いつの頃からか、先崎六段(当時)と行方四段(当時)は、将棋会館で顔を合わせた時にも互いに眼をそらし合うような関係となってしまうようだ。

雨降って地固まる、二人がとても仲良くなるのは3年後のこととなる。

→ 先崎八段と行方八段

 

 

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