将棋世界1994年11月号、先崎学六段（当時）解説、記・野口健二さんの第35期王位戦〔羽生善治王位－郷田真隆五段〕第6局「妥協なき戦い」より。
〔４図以下の指し手〕
▲２五桂△２四銀▲８五銀△同飛▲１六桂（途中１０図）
直線の寄せ
―▲２五桂から攻め合いになりました。
▲８五銀では、▲８二歩△同飛▲２四角△同歩▲７三銀で飛車金取りと指したいところですが、両取り逃げるべからずで△５六歩と取り込まれて▲同銀は△６六歩、▲同金は△７七歩で駄目です。ただ、▲８五銀△同飛▲１六桂は、粘りのない順でしたね。波長が合ってるから粘る方に手がいかない。
〔途中１０図以下の指し手〕
△８八歩▲７七桂△８九歩成▲６八玉△８一飛▲８二歩△６一飛▲２四桂△同歩▲２三歩△同玉▲６五桂△８八と▲同金△６五金（５図）
それでも△２三歩と叩く辺りは、郷田さんのしぶといところですが、1分で△同玉はさすがに勘がいいというか、強いと思いました。△同金は、▲８九飛△５六歩に、かまわず▲８三飛成として次の▲７二竜が厳しく、これは大変です。
△６五金は一番速い手で、激しく決めに出たわけです。ここが二人の似ているところで、諦めた相手に対して一直線に斬りにいくわけです。△６五金は背筋の伸びた手で、純愛っていう感じですね。純愛指向の将棋なんですよ、二人とも。よく知らないけど、きっと恋愛に対してもそうじゃないでしょうか。
〔５図以下の指し手〕
▲１三桂成△同香▲２五歩△５六歩▲２四歩△３三玉▲５六銀△６六金▲６二歩△同飛▲５一銀△６七金▲同銀△５六桂（投了図）
五冠王の貫禄
―最後は、羽生王位の鮮やかな寄せが決まりました。
投了図以下は▲７八玉に△８七銀がうまい手で、▲同玉は△６七飛成、▲同金は△８六桂▲同金△７七金で即詰です。
非常に内容の濃い、玄人好みというか、純粋な将棋ですね。ドラマ性には欠けるところがありますが、ひたすらひたむきに愛を貫くような将棋になる。だから、逆転逆転の官能小説にはなりにくいわけですね。
―カド番の羽生王位が完勝して、決着は最終局に持ち越されました。
やはり、この辺がタイトルを五つ持ってる人間の貫禄です。ですから、最終局は、郷田さんにとって大変な一番になりますね。勝負ですから、もちろんどちらが勝つかは分からない。ただ、希望をいえば、五つ同じ人間が持っているよりは、郷田さんに頑張ってもらいたい。男の意地を見せてほしいですね。
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純愛とは、邪心のないひたむきな愛。その人のためなら自分の命を犠牲にしてもかまわないというような愛。
先崎学六段（当時）の「純愛志向の将棋」「ひたすらひたむきに愛を貫くような将棋」という表現は、「ひたむきに一直線に決めに出る将棋」「リスクを背負うことを厭わず踏む込む将棋」というようなニュアンスになるのだろう。
非常にハッとさせられる表現だ。
５図の△６五金は、６四にいた金が６五にあった桂を取ったもので、一気に勝負！という一手。
ここで手堅くいくとすると、△４五銀もあったという。角を取って、飛車をいじめる狙い。
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「官能志向の将棋」というものはどうなるのだろう。
「純愛」の反対語が「官能」というわけでもないので、なかなかイメージするのは難しい。
