将棋世界1995年3月号、東公平さんのシナモノエッセイ「雑誌」より。
将棋雑誌の元祖は、明治14年12月創刊の『將棊新報』とされている。A5版、たったの12ページ。定価は6銭。発行所は東京府日本橋の山海堂、発行人は十一世名人の伊藤宗印だった。これは5号で廃刊になり、宗印は発行所を変えて明治24年に『将棋新誌』を出すが、15号までしか続かなかった。
成功したのは明治41年に東京の有力な出版社、大野萬歳館が発行した月刊『將棊新報』である。32ページだから当時としては立派なもので、大正12年の関東大震災で印刷所が潰れるまで、176冊を発行した。
四番目が非常にユニークな雑誌で、私はこれに惚れ込んだ。大阪の質屋の若旦那で阪田三吉関西名人の後援者だった文学好きの高浜禎(のち六段)が、採算を度外視して発行した『将棋雑誌』という名の将棋雑誌である。明治44年から15号しか続いていないけれど、全冊を越智信義さん(日本一の将棋文献蒐集家)から拝読して読んだ時の驚きは忘れられない。表紙も色刷りで実に美しい本だし、内容も垢抜けしている。
しかし、将棋好き(棋士も含む)のほとんどは、今でもそうだが「指す人」である。歴史やエピソードなどに関心のある「読む人」はごく少ないのだ。
現在の「デパート将棋まつり」の第1回は、昭和42年に白木屋(現東急日本橋店)で開催した「将棋四百年展」だが、正直な話、これを企画し、展示物を苦労して集めた越智さんと私は、がっかりしたのである。
多数の客は来て下さったけれど、細川家(首相になった細川さんの父君)提供の中国の「七国将棋盤」とか、灘蓮照九段秘蔵の人形将棋そのほかの珍しいシナモノや江戸期の棋書、ずらりと並べた越智さん秘蔵の将棋雑誌などにはあまり興味はなくて、ほとんど素通り。ところが、サービスのつもりで開設した「縁台将棋コーナー」が押すな押すなの盛況になったからである。という訳で、翌年の第2回からは「指す人」と、プロの対局を見たい人のための催しに変更したのだった。
(以下略)
—–
ここで出てくる将棋雑誌のいくつかは、国立国会図書館の近代デジタルライブラリーで、自宅にいながら読むことができる。
—–
近代デジタルライブラリーで「将棋」で検索してみると、360件が検索される。
年代的には1800年から1949年の棋書、雑誌、著書など。
—–
これらの本を流し読みするにしても相当な時間がかかりそうだが、ふと見つけた面白そうな本が、昭和14年発行の帆刈芳之助「貧乏を征服した人々」。
いわゆる成功伝になるのだと思うのだが、この中で、関根金次郎十三世名人と木村義雄十四世名人が取り上げられている。高橋是清、野口英世、石川啄木、榎本健一、入江たか子、あとは当時の世相らしく荒木貞夫、松岡洋右などの項もある。
時間のある時に、ぜひ読んでみたいと思う。