升田幸三賞ばりの”新説明”

近代将棋2004年11月号、村山慈明四段(当時)の「定跡最前線特捜部」より。

「どうして最近の若い女性はわかってくれないんですかねぇ?」

 8月の猛暑の中、国道沿いを歩きながらいきなり先生は言ってきた(一応匿名とさせていただく)。

「何かあったんですか?」

「まあ、お店入ってから話しますよ」

 と、行きつけのファミレスへ。さっそく先生は話を始めた。ことは電車の中で起きたらしい。

 「朝、電車で来るとき、私は座っていたわけですよ。で、隣の席が空いていて、右には女性がいて、で、その隣が……」

 と先生は一生懸命指を動かして説明しているのだが、僕の頭が悪いのか状況が把握できなかった(今思うとそんなに難しいものではないけれど)。

「先生、もっとわかりやすくお願いします」

 そこで先生、升田幸三賞ばりの”新説明”を思いついた。僕もこの説明を聞いて、すぐ話の全容がつかめた。

「私が7九に座っていたわけですよ。それでその若い女性が6九にいて8九は空いてるんですよ。で、5九・5八に親子がいて5八の人は立っていて、5九・5八で話をしているんですよ。で、私は8九玉と寄ったわけですよ。それで読み筋は8九玉、7九玉、6九玉、5九玉で、そうなれば親子二人座って話せるじゃないですか。ところがその女性が動いてくれないんですよ。目で合図しても化粧に夢中になっていて全く動こうとしない。そういう女性どう思いますか?僕のやったこと間違ってないよね?」

(以下略)

—–

昨日の夕方、電車に乗っていると、私の左隣の席に綺麗な若い女性が座ってきた。私は携帯でA級順位戦の中継を見ていたので、その女性の顔は全然見ていないのだが、なぜだか美人なのではないかと自分の中で決めつけていた。

まあ、それはいいとして、数秒後、その女性の目の前に立って、その女性と話をしている若い男性がいることに気がついた。結構仲が良さそうに見えた。

ふと、近代将棋の村山慈明四段(当時)の上記の文章を思い出した。

幸か不幸か、スタンディングポールを挟んでではあるが、私の右隣の席が一つ空いている。

このまま座っていたら無粋なお兄さんになってしまいそうなので、私は一度立って右隣の席に座った。

若い男性は「すみません」と言って私がいた席に座った。

—–

ここまでを、”新説明”でやってみると、

私が8九に座っていると、9九に綺麗な女性が座ってきた。9八にはボーイフレンドらしき男性が立っていて女性と話をしている。

スタンディングポール越しの7九が空いていた。6九には若い女性が座っている。

私は7九に移ると、9八にいた男性は8九に座って、私に「すみません」と言った。

となる。

たしかに、なかなか簡潔だ。

—–

9九、8九、7九、という態勢になってみて、ちょっと気になったのは、左隣の9九と8九のカップルが、あまり話が弾んでなさそうに見えたこと。

A級順位戦の中継に集中していたので、会話は聞いていなかったが、途中の駅で、女性が先に降りて、男性が追いかけるような感じだった。

9九の香車が9六へ走って、それを8九の銀が9八~9七と進むような雰囲気。

9九と9八の頃は仲が良さそうに見えたのだが、元々それほど仲が良いわけではなかったのだろうか。あるいは隣同士に座って会話のペースを崩してしまったのだろうか。

もしかすると、二人を無視して8九に居続けたほうが、二人のためには良かったのかもしれない。

なかなか難しいものだ。

 

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