渡辺明六段(当時)「A級の先生は皆強いと思います。ただし、届かないと思ったことはありません。追いつくまでは大変だとは思いますが」

近代将棋2004年12月号、相崎修司さんの「渡辺明六段竜王戦挑戦直前インタビュー」より。

竜王挑戦編

―竜王挑戦が決まりました。おめでとうございます。

 あ、どうも。ありがとうございます。

―昨年の王座戦に引き続いてのタイトル戦出場となりましたが、如何でしょうか。

 ファンの皆さんに忘れられない前に、再び大舞台に立てたのが良かったと思います。

―王座戦後もコンスタントに勝っていたので、忘れられるということはないと思いますが。

 そうでもないですよ。イベントで地方に行ったりすると、一線級の先生方の知名度と自分のそれの差を思い知らされます。

―2度目のタイトル戦ですが、去年と比べると慣れていると思いますか?

 多少は。ただ、2日制であることと、封じ手が気になります。

―2日制の対局は初めてですが、対策などはありますか?

 2日制のリズムをなるべく早くつかむようにします。

―海外対局に向けての準備などは?

 2年前に指導で上海に行っているので、パスポートはありますから他には特にないです。あ、カップラーメンは持っていこうかな(笑)。

―ランキング戦から挑戦者決定戦に至るまでで、印象に残った将棋があれば教えて下さい。

 やはり森下九段との挑戦者決定戦ですね。あと、子どものころ憧れだった谷川棋王に勝てたのはとても嬉しかったです。

―森内竜王との対戦成績は1勝2敗ですが、竜王の将棋をどのように感じますか?

 そうですね、あまり派手な手はないと思います。堅実なタイプでしょうか。

―では、ご自身の将棋はどのように分析されていますか?

 自分自身の将棋は特徴がつかみづらいです。

プライベート編

―長男の柊君が誕生しました。出産に立ち会われたそうですが、生まれた瞬間は如何でしたか?

 うれしかったです。無事に出てきてホッとしました。「男の子だ」とちょっとビックリしましたね。女の子だと聞いていたので。

―「柊」という名前はお父さんとお母さんのどちらが付けましたか?

 2人で選びました。

―名前の由来などがあれば教えて下さい。

 特にないです。なんとなくしっくり来たのでつけました。

―将棋は教えますか?

 教える予定はありません。柊に任せます。親から強制という形にはしたくないので。プロ棋士よりはプロ野球選手になって欲しいですね。

―では、親子で野球ですか?

 やりたいですね。まずはキャッチボールから。僕は小学生のときに野球をやっていましたので、まだ多少はいけると思います(笑)。

―奥さんとは将棋をやりますか?

 全くやりません。嫁さんはたまに詰将棋を解くくらいです。

―今一番やりたいことは?

 柊が大きくなってから家族旅行に行くことですね。

―Web上で更新されている「若手棋士の日記」。書き始めるきっかけなどがあれば教えて下さい。

 HPが冴えんから何かやろうという話が発端です。管理人が何もやらなくて(笑)。

―インターネット中継されている対局では掲示板によく書き込まれるようですが。

 ファンのための掲示板ですから、何かの足しになればと。

一般将棋編

―デビュー当時と比較してどのように将棋が変わったと思いますか?

 根本的な考え方は変わっていないと思います。実力は伸びたと思いますが。上にいる先生と指すことで伸びるスピードがアップしたと思います。

―では、明らかに強くなったと胸を張れる点があったなら教えて下さい。

 う~ん、全体的に底上げされたという感じで、特化して強くなったと思える点は無いですね。

―多くの研究会に参加されていますが、序中盤の研究は大事ですか。

 必要最低限は大事だと思います。あからさまな研究負けはしたくありませんし、それで負けるのはもったいないですから。

―竜王戦では阿久津五段、橋本四段と当たりましたが、この二人を含めて同世代の棋士の将棋をどう感じますか?

 そのうち大舞台に出てくると思います。いまでも、もうちょっと勝てるんじゃないかと思っています。本戦入りした程度で満足してはいけないのではないかと。

―羽生世代の強さをどう見ます?

 A級の先生は皆強いと思います。ただし、届かないと思ったことはありません。追いつくまでは大変だとは思いますが。

―最後に、竜王戦に関してファンに一言お願いします。

 せっかくのタイトル戦なのであっさりとおわらず、いい将棋を指せるよう努力したいです。雰囲気にびびらないように考えています。ネット中継に加えてBSでの放映もありますので是非ご覧になってください!

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昨日、竜王戦挑戦者決定三番勝負第3局が行われ、渡辺明棋王が永瀬拓矢六段を破って糸谷哲郎竜王への挑戦を決めた。

今日の記事は、渡辺明六段(当時)が森内俊之竜王(当時)への挑戦を決めた直後の頃のインタビュー。

まだ11年前のことなのに、とても感慨深く感じられるのは、それだけ渡辺明棋王の進化がめまぐるしかったということだろう。

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NHK将棋フォーカスの10月からの講座は、渡辺明棋王の「渡辺流 勝利の格言ジャッジメント」。

この講座では、多くの格言を集め、その有効度を現代的な視点で判定していくという。

明日発売されるNHK将棋講座10月号に、「勝利の格言ジャッジメント」の第1回から第4回までの内容が載っている。

それぞれの格言の有効度の判定も興味深いが、実戦例を通して現代将棋の考え方を自然と学べるような構成となっており、3級の方なら初段に、初段の方なら三段にステップアップできるような、非常にためになる内容だと感じた。たとえ話なども面白く、私ももうちょっと強くなれるのではないかと思っている。

それから、巻頭の渡辺明棋王と伊藤かりんさんの対談もなかなかの面白さ。

竜王戦での糸谷哲郎竜王との対決とともに、10月からの放送も楽しみだ。