村山聖九段が執筆した非常に貴重な講座。
将棋マガジン1991年8月号、村山聖五段(当時)の連載講座「ダイナミック振り飛車戦法」より。
初めまして、村山聖です。
某月某日、僕は関西会館に行き、棋譜を並べていました。
すると僕の師匠がやってきて、
「マガジンから電話があった。どんな仕事でもやらなあかんで」
僕が「ちょっと、まあその」と訳のわからん事を言うと、「これは命令や」と言って去っていかれました。
某月某日、やはり連盟にいると、マガジンの人から電話、「あのう、原稿をお願い出来ますか?」
僕は「はあ、いいですけど」 「じゃあ、十六字詰で、図面がどうとかこうとか」。はいはいと聞いていたが、四間飛車と言われ、思わず聞き返す。
「四間飛車破りですか?」
「いえちがいます」
「それならもっと適任者が・・・。僕は居飛車党なんですが」
「プロだから、振り飛車を持っても書けますよ」
と言われ、そうか、そういえば、そうかなと思い、引き受けました。
しかし、まったく進まない。何を書いても難しい。一局であるとしか書けない性格上、とても読みにくい文章が出来たような気がします。
出来たら、我慢して最後まで読んで下さい。
▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲2五歩△3三角▲4八銀△3二銀▲5六歩△4二飛▲6八玉△6二玉▲7八玉△7二銀▲5八金右△7一玉▲9六歩△9四歩▲5七銀△4三銀▲8六歩△5二金右▲8七玉△6四歩▲7八銀△7四歩(1図)
振り飛車といっても、中飛車、四間、三間、向かい飛車とありますが、恐らく一番採用率が高いのは、四間飛車ではないかと思うので、四間飛車を一緒に考えてみたいと思います。
大概の振り飛車は、自分から、△4四歩と角道を止めます。
そして▲2五歩に△3三角と、角の位置も限定されます。
ここまでは、居飛車の方が駒の効率が良いと思います。
この後、居飛車は作戦を決めるのですが、玉頭位取り、5筋位取り、穴熊、急戦、左美濃とあります。
今回は、左美濃を中心に考えてみたいと思います。
振り飛車の方としては、穴熊にする含みがなくなりますが、一手早く玉が安定するので、△7二銀から△7一玉と、囲う方が得策です。
1図から▲3六歩~▲3八飛と急戦に出られる手は、後で考えるとして、取りあえずじっくり指す▲6六銀~▲7七銀引と、四枚美濃にする手順の対策を、何通りか見てみましょう。まず、一番おとなしく指してみます。
1図以下の指し手
▲6六銀△5四歩▲7七銀引△8二玉▲6六歩△8四歩▲7九角△2二飛▲6七金△6三金▲3六歩△1四歩▲1六歩△5一角▲8八玉(変化A図)こうなると、振り飛車の方から動かす駒がなくなり、居飛車の方だけ銀冠から穴熊と固められてしまい、少し損な気がします。
ですから振り飛車の方は、有利な拠点を作ってしまう事が大事です。
よって▲6六銀に△7三桂と跳ねます。そして▲7七銀引に△6五歩(途中図)と突きます。
以下▲7九角と引けば、△4五歩と指し、▲3六歩に△8二玉、▲3七桂には△5四銀(変化B図)と、自然に応対します。
この局面は、飛車の働きは互角だと思いますが、角の働きに少し差があると思います。
振り飛車の角は、6五の位によって遠く敵陣を睨んでいるのに対し、居飛車の角の方は少ししか働いていない気がします。
振り飛車の方としては、この後は△8四歩(局面によって△8五歩と突く)、あるいは△6三銀引から△5四歩~△5五歩と指せば充分です。
戻って、△6五歩(途中図)の局面で、居飛車は多分▲6六歩と一歩交換に出て来るでしょう。
以下△6六同歩▲同銀の局面で、二通りの指し手が考えられます(他にもあるかもしれませんが?)。
①まず、ゆっくり指す順として、△6三金▲6七金△6五歩▲7七銀引△5四歩▲7九角△2二飛▲3六歩(変化C図)といった具合に進みます。
この局面はいい勝負だと思います。以下は、△4二角か△8二玉くらいです。
②△4五歩と突く手もあります。やはり居飛車は▲6七金と上がってくる。そこで振り飛車は△5四銀として、△4六歩と突く手を狙います。▲7九角と受けた時、△6五銀とぶつける手が第一感。
これに対し、▲5五歩は△6六銀▲同金△6四銀で後手優勢ですが、▲7七銀引とされ、△6六歩▲5七金(変化D図)で少し無理です。
振り飛車が先手番で、△8四歩が入っていれば、この変化は振り飛車の方が指せるのですが。
ですから、△6五銀と出ずに△8四歩と突く方が、含みを持たせて得な指し方です。居飛車側は玉頭が薄いので▲7七銀引と指してきます。
ここで△6三金と上がると、▲2四歩△同歩▲5五歩△同銀▲2四角と二枚換えの順を狙われます。
△6三金で△8五歩と突いても、▲同歩△同桂▲8八銀で、うまくいきません。
▲7七銀引に対しては△8二玉(2図)と上がるのが得策。
この局面の形勢判断は、どちらも指せるの一言です。
振り飛車の方からは、△8五歩と突く手を見ながら、△6三銀引から△5四歩、あるいは△8三銀~△7二金と上部を手厚くして行きます。
* * * * *
1図から、▲3六歩△8二玉▲4六銀と急戦に出られる手もあります。
1図以下の指し手
▲3六歩△8二玉▲4六銀△5四歩▲3五歩△3二飛▲3四歩△同銀(3図)3図で▲3五歩△4三銀▲3七銀と指す手には、△8四歩▲3六銀△7三桂▲4六歩△4二飛(変化E図)で充分。
居飛車側の3六銀と、8七玉のバランスが悪いと思います。
3図では、①2四歩と突き捨ててから▲3八飛か、②単に▲3八飛と回るかです。
3図以下の指し手②
▲3八飛△4五歩▲3三角成△同飛▲5七銀△4三銀▲3三飛成△同桂▲3四歩△同銀▲3一飛△4三銀▲1一飛成(4図)▲5七銀では▲8八角もあります。これには△4六歩と銀を取り、以下▲3三角成△同桂▲3四飛△4三金▲3六飛△4四角(変化F図)と進みます。
この局面は何となく振り飛車を持ちたい気がします。
4図の局面は、とても手が広く指す手も迷います。
△2五桂と跳ねるか、△4六歩と突き捨てるか、それとも△3九飛と打ち込むか。他にも手はありそうです。
現在、振り飛車の方が香損で、竜も作られています。でも桂は逃げていますし、居飛車の方は歩切れです。長引いていけば、段々振り飛車が良くなっていくでしょう。
3図以下の指し手①
▲2四歩△同歩▲3八飛△4五歩▲3三角成△同飛▲8八角△4六歩▲3三角成△同桂▲3四飛△4七歩成▲同金△2五角(5図)2筋を突き捨ててきた場合にも、△4五歩と突きます。▲3三角成△同飛に▲5七銀は、△4三銀で前の変化と同じです。
ですから▲8八角と打ちます。以下、同じように進み▲3四飛。
先程のように△4三金と上がると、▲2四飛と回られ、振り飛車が悪そうです。
ここでは△4七歩成が良い手。▲同金の一手に△2五角と打って、5図。
以下▲3七飛には△4五桂で良し。▲4四飛には△4三歩、▲3三飛成にも△4七角成で、振り飛車良しです。
もしもという言葉は余り好きではありませんが、▲4六銀から▲3五歩と攻めてくる場合、振り飛車が先手番なら△8四歩が突ける分、ハッキリと、振り飛車が指しやすいと思いました。
今回の講座はこれで終わりです。
編集部の方から初段位の人のためにと言われたのに少し難しい内容になってしまった気がします。
僕が居飛車の方を持っている時に、嫌だなあと思う手を中心に書きました。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
また来月会いましょう。
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村山聖五段(当時)から直接教えられているような気分になれる講座。
冒頭の、師匠の森信雄五段(当時)とのやりとりが絶妙だ。
森信雄五段はこの頃の将棋マガジンに「詰将棋スクール」という講座を連載している。
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振り飛車を指すこともあったとはいえ、居飛車党の村山聖五段に振り飛車の講座を依頼するという発想が面白い。
「僕が居飛車の方を持っている時に、嫌だなあと思う手を中心に書きました」というところが、村山聖九段らしい真摯さなのだと思う。