行方尚史四段(当時)の非常に珍しい端攻め

将棋世界1995年8月号、神吉宏充五段(当時)の「今月の眼 関西」より。

 この頃、新聞を読むことが増えましてん。情報はテレビが主だった私やけど、震災以後大きな事件が立て続けに起こって、それ(テレビ)だけでは物足らず、頭の中にいっぱい情報を入れたくて、新聞を買いあさるようになったんですな。

 しかし事件が膠着してくると、どれもこれも似たような内容やし、スクープとか書いてあっても何故か知っとったりしてねえ。こうなってくると、どの新聞も同じ顔に見えてきたんですわ。何を買っても一緒に見えてもて……。さてそんな時、みなさんは沢山ある中からひとつの新聞をどうやって選ばれるのだろうか?

 えっ、野球が詳しく載っているのんですか?なるほど、それもあるか。でもね、各新聞でこれだけは他社にない『顔』っちゅうもんがありませんか?そうですがな、将棋と碁の欄ですがな。これって各社によって違いがあるんとちゃいますか?ほら、将棋の欄、毎日新聞なら「名人戦」、読売新聞なら「竜王戦」、産経新聞は「棋聖戦」というように、各新聞に『顔』があるんですな。だから、自分の応援している棋士がよく活躍する新聞を買えばええと思うんでっせ。谷川王将のファンならまずスポーツニッポンやろか。なに、貴方はハブのファンとな……それやったらほとんどの新聞を買いなはれ!えっ、私のファンですか?こりゃまた嬉しいですがな。そうでんなあ、私が一番活躍するんはっちゅうと……そや!NHK新聞なんかがええとちゃいますか(ないない)。

 ところで最近はぶっそうな話が多くて怖い世の中になりましたねえ。「拉致監禁」とか「集団リンチ」とか「行方不明」とか…。で、こんな言葉が耳から入ってきている時は違和感なしでおれるんですけど、文字になると昔は平気だった「行方不明(ゆくえふめい)」は「ナメカタ不明」とつい読んでもて、変な気持ちになってしまうんですわ。

 初めは行方四段の事を「ナメカタ」って読むのに違和感を感じとったのに、全く…馴れって恐ろしいもんですなあ。

 さて今月はC2の開幕戦から2局ご覧戴きましょう。

(中略)

 まず1局目は「行方不明」ではない行方四段と小阪六段の一戦。注目の若手とベテランの戦いだが、最近の若手は渋いので軽快な棋風の小阪六段の方が若手に見える時がある。そうなれば、面白いと思って見ていたが、本局で若手らしいパンチを出したのは新人の方だった。

 1図は小阪六段が8四の歩を囮にして左辺から軽快に捌きを狙ったところ。さあ、▲8四角に対して…。

行方小阪1

1図以下の指し手
△4四飛▲4六歩△3三桂▲5七角△5四歩▲9五歩(2図)

 行方四段は振り飛車の動きを警戒して渋く受けに回る…と見ていたらいきなり▲9五歩!9八に玉がいる形でのこの一手は見たことがない。本局、この意表の端攻めが功を奏して行方の勝ち。

行方小阪2

(以下略)

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たしかに、「行方不明」という文字を見ると、私も「なめかたふめい」と読んでしまうようになっている。

もう直らないと思う。

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2図の▲9五歩は本当にビックリする。

△9五同歩なら、▲9二歩△同香▲3三桂成△同角▲8四桂△8三銀▲9二桂成△同銀▲4五香

▲9二歩に△同玉なら、▲8八玉△8二玉▲9二歩△同香▲3三桂成△同角▲8四桂△8三銀▲9二桂成△同銀▲4五香

が狙いなのだろうか。

なかなか思いつかない凄い一手だ。