対局のおやつはデコレーションケーキ

将棋世界1984年8月号、萩山徹さんの編集後記より。

 神吉四段対谷川俊昭氏のアマ・プロオープン戦のときのことです。写真撮影の中野カメラマンが対局室から降りてきて「神吉さんがおやつはケーキがいいと言っていますよ。谷川さんの分も食べるそうです」

 そういうことなら、腹いっぱい食べてもらおうと、ケーキ屋に走り、なるべく派手なデコレーションケーキを買ってきました。

 さすがに一人では食べ切れないかと心配したのですが、キレイに平らげてしまったのには本当にビックリ。

(以下略)

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このアマ・プロオープン戦で、神吉宏充四段(当時)はアマ強豪の谷川俊昭さん(谷川浩司九段のお兄さん)に勝っている。

後手が角損している中盤の局面に見えるが、投了図。

神吉谷川

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神吉

将棋世界1984年8月号掲載の写真。撮影は中野英伴さん。

写真を見ると、やや小さめのデコレーションケーキに見えるが、これは神吉宏充四段の体が大きいからそのように見えるだけで、ケーキの皿は、カレーライスの皿ほどの大きさがある。

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スポンジとクリームが層になってイチゴなどがのせられたショートケーキは日本独自の形態で、例えばアメリカのショートケーキは、スコーンまたはビスケット(パンとケーキの中間のようなもの)にクリームとイチゴなどが挟まったもの。

不二家の創業者である藤井林右衛門が大正初期にアメリカで修行した際に出会ったアメリカのショートケーキ、これを藤井林右衛門が帰国後、スコーンを日本人好みのやわらかいスポンジに変えたものが日本のショートケーキの始まりだと言われている。

横浜の洋菓子店だった不二家は、1922年に日本初のショートケーキの販売を開始している。

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私が子供の頃のケーキはバタークリームが主流で、ケーキを1個食べるともうそれで十分というほど、胃にもたれるものだった。

いつ頃からか生クリームが出現し、生クリームのケーキがケーキ界を席巻するようになる。

たしかに、生クリームを初めて食べた時、世の中にこんな美味しいものがあっていいのか、と思うほどのインパクトがあった。

それ以来、バタークリームとは疎遠になっていたわけだが、最近になって思うと、幼馴染の気立ての良い女の子をこちらから一方的に別れたような気持ちにもなってくる。

とはいえ、当時のバタークリームは決して美味しいものとは言えなかった。また、バターを使っているのならもっと高価なものになっていたはずなのに、そのような値段設定でもなかった。

調べてみると、当時のバタークリームにはショートニング(植物油を原料とした、マーガリンから水分と添加物を除いたような純度の高い油脂)が使われていたという説もある。

どちらにしても、美味しくなくとも、たまにはバタークリームのケーキを味わってみたいような気分に最近はなっているのだが、更に調べてみると、現在のバタークリームは昔とは比べものにならないくらい美味しくなっているらしい。

バタークリームケーキは凄くおいしい(Daily Portal)

個人的には、昔ながらの美味しくないバタークリームのケーキを懐かしみたい気持ちが半分、現代版の美味しいバタークリームのケーキを食べてみたい気持ちが半分。

私はケーキを食べるためにいろいろと手段を尽くすほうではないので、バターケーキと再開するのはもう少し先になるかもしれない。