窪田義行七段の七つ道具のルーツ

将棋世界1995年4月号、窪田義行四段(当時)の「待ったが許されるならば……」より。

 読者の皆様いかがお過ごしでしょうか。

 私はかねがね健康管理と体力に多大な関心を置いていたのですが、最近になってタクシーに乗った折、運転手氏が「田中九段が、NHKラジオのトーク番組にしばらく出ていた」と教えてくれました。

 その内容こそが疲労回復(健康維持のキーポイントですね)に関するものだったそうで、大いに興味をそそられました。

 この様な事もありましたので、今回私は「日頃の健康管理と対局に最適な体力の錬成」について拙文を展開する事と致します。

 いささか前になりますが、「くうねるあそぶ」というキャッチコピーを某デパートグループで用いていました。

 食事・休息・娯楽……これらに運動と健康法を加えればほぼ十分と言えます。

 細部をつつけば、適度な強度の肉体労働や長めの歩行通勤が体力を補完し、集団内や家庭での良好な人間関係が娯楽の如くストレスを和らげるといった好条件もありそうです。

 ただ長時間のデスクワークに従事していたり、大都市の車過密の中でのんびり歩く気になれなかったり、集団内での競争に神経をすり減らしていたり……と、それらを打ち消す悪条件も様々出て来るのが残念な所です。

 いささか補足が長くなりましたが、先にあげたファクターに戻って我が身を振り返り、まず「食」から検証してみます。

 私は一人暮らし三年目になるのですが、未だに自炊の技能が身に付かず外食頼りの日々が続いています。

 長時間の対局で徐々に消耗する事を考えると、肉類より野菜や豆類なんかを多く摂るべきか、等と考えてはみるのですが、予算との兼ね合いもあって思うに任せません。魚介類に関していうと、頭に効くという不飽和脂肪酸(EPA・DHA)を錠剤で飲んでいた事もあるのですが、元が元だけに劇的な効果は望めなかった様です……。

「休息」に関しては、最近一寸した発見がありました。どうも日頃、睡眠時間の割には体が凝る感じで不満を覚えていたのですが、マットレスを敷いた上で敷布団を二枚!使うと硬軟が適度で良く眠れそうなのです。

 つまらない工夫ですが、棋士のご多分に漏れず寝坊症の私にはピッタリかなと自負?しています。

 また、最近本で読んだ話なのですが、「(広い湯船の)銭湯で入浴すると、内風呂の場合より脳波の状態が良くなる」そうです。妙な主張にも思えますが、入浴一つ取っても、どうリラックスするか工夫しようがあると教えられました。

 三番目「遊」についてですが、雑誌乱読やゲームといったお気楽な物はともかくとして、他にはクラシック、それもドヴォルザーク「新世界より」の様な昂揚させるものを聴きいったりもしています。

 盤上の修羅に身を置く以上、とことん弛緩してしまう程の代物こそがいいのかもしれませんが、私の場合人付き合いを増やすべくスポーツサークルにでも参加してみるのがいいのかな?

 最後の二つの内、運動に於いては軽い筋力トレーニングとストレッチを毎日履行しています。

 実を言うと、走った際に息が切れやすかったりしますので、ランニングなりで鍛えておくべきでしょうが、「体力の持久力」より「精神の持久力」が長時間対局の要なのも紛れもない事実。

 体を鍛えるにしても、辛さが精神修養になると考える様でないといけないかもしれません……。

 もう一つの健康法に関してですが、規則正しい就寝と起床、といった何気ない辺りが実は肝心。特に順位戦が近づいたら時間をずらし、夜戦のまっただ中でも眠気が出ない様にする工夫が広く行われています。

 私なりの注意としては、正座によって負担の掛かった関節、盤面凝視のせいで疲労した眼をほぐす様にしています。

 まあ、現在までにかなり眼の度が進んでしまいましたので、「待った」をするならば「ずっと以前から最大限に眼を気遣う」とでもなりましょうか……。

 後は、噂の清涼飲料水?「青汁」を毎日飲んでいるのですが、お陰でか風邪も引かずに済んでいますので、これは大いに役に立っていそうです。

 以上、やや散漫な筆致になってしまいましたが、そうなった事からも「ベストコンディションの調整」の難しさを痛感させられています。上を目指すため、身に付けていかなければいけませんが!

 読者の皆様の中でも、一月の震災で直接・間接に被害を受けた方が少なからずいらっしゃるのではないかと推察し、心からお見舞い申し上げます。

 これからは、そういった皆様の心の支えの一環となる様な将棋を目指さなければ……。

——–

窪田義行六段が昨日のB級2組順位戦で阿部隆八段に勝ち、七段昇段(勝ち星規定)を決めた。

今日の随筆は、窪田七段が四段になって1年目に書かれたもの。

——–

窪田義行七段といえば、対局時に小型の空気清浄器や栄養ドリンクなどの七つ道具を用意したり、自宅では竹酢液入りの風呂に入るなど、万全のコンディション作りをしていることで知られている。

そのような指向は、既に四段時代から旺盛であったことが、この随筆から読み取ることができる。

——–

過去のネット中継では、対局時の窪田六段(当時)の手元に炭酸水と「スズメ蜂ウォーター」が置かれていたことが観測されている。

「スズメ蜂ウォーター」を調べてみると、岩手県盛岡市の藤原養蜂場が作っているもので、スズメ蜂の蜂蜜漬けに天然プロポリス、ローヤルゼリーを加え、アルカリイオン水仕立てのドリンクにしたものであることが判明した(1本648円)。

「スズメ蜂ウォーター」は、疲労回復、体力維持に効果 的で、脂肪を優先的に燃焼させながら、ここ一番に必要な糖質(グルコース)を高いレベルで維持するので、トライアスロン選手やマラソン選手などから注目されているという。

たしかに、持久力と集中力が必要とされる将棋にも向いていそうだ。

窪田七段は、このようなドリンクを何種類知っているのだろう。