藤井猛竜王(当時)「王手飛車をかけて取れないようでは負け」

将棋世界2000年2月号、河口俊彦六段(当時)の「新・対局日誌」より。

 王将戦リーグの他に、各社棋戦が数局あり、藤井竜王も木村五段と対戦している。これは棋聖戦リーグで、木村にすれば実力を見せる絶好の機会だ。

 9図は力将棋で乱戦のようでいてさにあらず「藤井システム」に組み込まれた変化の一つなのである。今やあらゆる戦法が、未研究の形であらわれることは稀になった。棋士は定跡依存症にかかっている。

藤井木村1

 ところで、9図は木村五段が△4七歩とたらした場面だが、これが好手だった。先手は目ざわりだから取りたいが、▲4七同銀引は△5五桂もあれば、△6七と▲同金△8六角の王手飛車もある。ただすぐ△6七と▲同金△8六角の王手飛車は、▲7七角の合わせでたいしたことがない。やっぱり、△4七歩が味よく、居玉の欠陥を突いている。

 藤井竜王は困った。▲4七同銀上と取るのは、△3七角などの味があって指せない。

9図以下の指し手
▲8三歩△同飛▲8四歩△同飛▲6六角(10図)

藤井木村2

 藤井竜王は飛頭に歩を連打した。王手飛車の狙いなのは明らかだが、木村君は平然と歩を取り、▲6六角の王手飛車がかかった。

 プロは王手飛車をかけた方がわるい(何の根拠もない)と言われるが、10図は、先手がよくない。10図で△5五桂の合い駒がぴったりだからである。

 王手飛車をかけたからには、△5五桂に▲8四角と取らなければ話にならぬが、△6七桂打▲同銀△同桂不成▲同金△同と、で先手敗勢。

 やむなく▲7七角と、と金を払ったが「王手飛車をかけて取れないようでは負け」と藤井竜王は言い、△8九飛成以下一方的に敗れた。

 木村五段は強い。こういう勝ち方が大きな自信になる。

(以下略)

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木村一基五段(当時)の△4七歩。

駒の利きが集中している所に歩を打つのは好手である場合が多いと、どこかで読んだことがあるような記憶があるが、もしそうだとすれば、△4七歩はまさにそういう一手。

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「プロは王手飛車をかけたほうが負ける」というのは都市伝説であると言われることもあるが、アマチュアに比べればプロの方が「王手飛車をかけたほうが負ける」割合は大きいと思われる。

そういった意味では、10図が典型的な王手飛車をかけたほうが負ける流れ。

王手飛車の押し売りだ。

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もちろん、王手飛車取りをかけられて敗れているケースもある。

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