「ゼニのとれる将棋」

2002年度A級順位戦ラス前、佐藤康光二冠(当時)-藤井猛九段戦。ともに5勝2敗で勝った方が名人挑戦に大きく近づくという一戦。

佐藤康光流と藤井猛流の真正面からの大激突。非常に見ごたえのある将棋。

将棋世界2003年4月号、「第61期A級順位戦」より。

 事実上の挑決、佐藤-藤井戦は強手、名手の応酬となった。

 1図から△5七角成▲2三飛成△6七馬▲同銀△3二角▲2二竜△5五歩▲4三銀△8七金…。

 いわゆる「ゼニのとれる将棋」というか、面白い将棋だ。△3二角が大山流を思わせるスケールの大きな一着。▲4三銀にも△8七金の返し技が鮮やか。

(以下略)

将棋世界2003年4月号、河口俊彦七段(当時)の「新・対局日誌」より。

 挑戦権争いの、佐藤対藤井は、意地を張り合い、アメリカンフットボールのラインがぶつかり合って重い音を立ててるような将棋になっている。2図は▲2三飛成と突破したが、先手有利というわけではない。

2図以下の指し手
△3二角(途中1図)

 人それぞれ得意な手というものがあって、△3二角などもその例。藤井九段の将棋によくあらわれる、というのではないが、こうしたカウンターを好む。だから、ここはうまく行ったと思っていただろう。

 そんな気配は佐藤棋聖にも伝わっていた。なにを!という感じで最強の手を連発する。

途中1図以下の指し手
▲2二竜△5五歩(途中2図)

 その第一弾が▲2二竜。▲2六竜△5五歩▲7八金などと、言いなりになるのは嫌だ、というわけ。とはいえ▲2二竜は危ない。△5五歩から△8七角成の王手で、竜を素抜かれる筋があるからだ。

途中2図以下の指し手
▲4三銀(途中3図)

 案の定△5五歩が来たが、そこで▲4三銀が強手。スレスレの線を行く升田流みたいではないか。

途中3図以下の指し手
△8七金(途中4図)

 ▲4三銀が伝えられると控え室はざわめいた。「とりあえず頭に金を打つよね」の声が聞える。△8七金と打ち、▲同玉なら△4三角の王手で竜を抜ける。

 それを承知の▲2二竜、▲4三銀だから、佐藤棋聖の強情も相当なものだ。

途中4図以下の指し手
▲7九玉△7七金▲同桂△7六歩▲7八歩△5六歩▲3二銀成△7七歩成▲同歩△5七歩成(3図)

 しかし△5七歩成と急所にと金を作って、藤井やや優勢であろう。「5三(5七)のと金に負けなし」と言うぐらいだ。

3図以下の指し手
▲7八銀△5二飛▲4三角△5八銀(途中6図)

 局面は藤井九段の筋書き通りに進んでいた。佐藤棋聖は▲4三角と強打をつづける。

 このとき藤井九段に悪手が出た。

 △5八銀と打ち込んだ手がそれで、俗に△5八と、と入って駒得を図ればよかった。

 手がかりのと金を残す△5八銀は、優勢な側がやる手厚い指し方なのだが、この銀が質駒になってしまう。

途中6図以下の指し手
▲2一竜△5一歩▲5八金△同と▲5三歩(4図)

 ▲5八金と銀を取ってから▲5三歩が痛打。

 4図となって逆転した。△5三同飛と取れば、▲6一角成と切られ、△同銀▲8三金△同玉▲7五桂で詰み。銀を渡したのが、ここで響いている。

 こうしたぎりぎりの線で競り合っている将棋は、ちょっとした差が致命的になる。トン死筋に気づいた藤井九段は、△6二飛と予定を変更したが、ここで大勢が決した。

 △6二飛以下は、▲7六角成と引き付けられ、△5七と、に▲9六歩の逆襲を食らった。こういった攻めは受けがなく、この後は一方的になり、佐藤棋聖が勝った。

(以下略)

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見ていて嬉しくなるような佐藤康光棋聖(当時)の徹底的な突っ張り、藤井猛九段の秘術を尽くした△3二角。

結果的にはガジガジ流の△5八銀が敗因となってしまったが、二人の個性と個性のぶつかり合いから生み出された、華があってワクワクして面白い将棋。

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この一局は「ゼニのとれる将棋」と表現されているが、「ゼニになる将棋」という題名で書かれた観戦記もある。

大山-升田戦の、これも非常に面白い将棋。そして東公平さんの絶妙な観戦記。

ゼニになる将棋(前編)

ゼニになる将棋(中編)

ゼニになる将棋(後編)

 

 

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