今回の将棋ペンクラブ大賞観戦記部門大賞を受賞された朝日新聞記者の佐藤圭司さんの高校生時代の将棋世界への投稿。
将棋世界1984年5月号、田丸昇七段(当時)の「将棋相談室」より。
<問> 観戦記者になりたい
山口瞳さんの「血涙十番勝負」を読んでから将棋が大変好きになりました。指すのも好きですが、観戦記を読むのが好きです。文章を書くのが好きなせいもあって、将来観戦記者になれたらいいなあと思っています。(あ、ここまでは雑誌にのせないでください。でも書いちゃったゴメンネ=筆者)。観戦記者になるためには、どうすればいいのでしょうか。
(岡山市 佐藤圭司 17歳 初段)
<答> 職業的にはまだ大変
プロ同士のギリギリの勝負を盤側からみつめ、それを文章で新聞や雑誌で広く将棋ファンに伝える。それが観戦記者の役目です。文章を書くことと将棋が好きな方からみれば、これほど魅力的な仕事はないでしょう。しかし現実的にはなかなかきびしい職業です。
観戦記者は丸一日対局で取材し、それを後日原稿にしあげます。ですから一局の仕事は数日分に相当します。それも各紙ローテーションがあり月2局がいいところ。原稿料もそれほど高くなく、観戦記だけで生活するには何紙かかけもちしなくてはなりません。
それに棋士が主で観戦記者が従というのがこの世界の風潮で、しょせん黒子的存在です。マスコミや棋士との人間関係のしがらみも生じますし、社会的には地味で自立した職業とはいえないでしょう。
現在約30人ほどの観戦記者がおりますが、大半が新聞社の担当記者かペンネームによるプロ棋士。正業のかたわら書いている感じで、ほかには将棋雑誌編集者やアマチュア強豪、作家、フリーライターなどがおります。この中で観戦記だけで生活している人はほんの2、3人で、それがこの世界のむずかしさをよく物語っています。
観戦記者になるための資格はとくにありません。棋力は初段もあれば十分です。あとは前述のような職業立場について、マスコミとつながりを持つことです。
——–
佐藤圭司さんは、2012年の将棋ペンクラブ大賞観戦記部門優秀賞(第69期名人戦七番勝負第5局 森内俊之九段-羽生善治名人)に続いて二度目の受賞となる。
→朝日新聞記者の観戦記が受賞 将棋ペンクラブ大賞(朝日新聞デジタル)
——–
将棋世界2015年7月号、池田将之さんの「関西本部棋士室24時」に、佐藤圭司さんが奈良総局へ転勤する際に井上慶太九段と船江恒平五段の呼びかけで開かれた慰労会の模様が書かれている。
その書き出しは、
「どうしたら観戦記者になれますか?」
将棋世界の質問コーナーにある少年が投書した。その少年はやがて新聞社に就職し、夢を叶えた。
この少年が佐藤さんであり、この投書が今日の記事で紹介している「将棋相談室」への質問。
佐藤さんは大学を卒業後、日本興業銀行(現・みずほ銀行)へ入行したが、3年後、朝日新聞社へ転職。将棋担当となったのはそれから8年6ヵ月後、2002年のことだった。
少年時代の夢を叶えるということはなかなかできるものではない。
本当に素晴らしいことだと思う。
——–
多くの棋士に愛されている佐藤圭司さん。
——–
佐藤圭司さんが将棋世界で書いた記事。