郷田真隆八段(当時)「振り飛車党の棋士は、たいがい振り飛車破りがうまいんです」

将棋世界2001年1月号、第12期竜王戦七番勝負〔藤井猛竜王-鈴木大介六段〕第3局「課題を残した挑戦者」より。解説は郷田真隆八段(当時)、記は野口健二さん。

―第1、2局を見て、挑戦者・鈴木六段の戦いぶりはどうですか。

郷田 早指しの棋士なので、持ち時間8時間の二日制にとまどうかな、という見方をしていましたが、やはり持ち時間の使い方に苦労していたという印象です。第2局では、中終盤に鈴木六段らしさが出ましたが、珍しく時間がなくなってしまった。まだ本来の力を出し切っていない感じです。ただ、一番得意な穴熊を指さないのは不思議です。藤井竜王は穴熊対策がうまいと思っているのかもしれません。

―藤井竜王は2局とも居飛車でした。

郷田 ある程度予想していましたが、振り飛車党の棋士は、たいがい振り飛車破りがうまいんです。弱点を知っているというか。大山十五世名人もそうでしたが、じっくり指して相手の力を利用して勝つ感じです。藤井竜王も急戦はやってません。もちろん居飛車穴熊が有力ということもありますが、第1局がその顕著な例で、穴熊に組むぞと見せて、相手の動きを逆用して勝っています。

―序盤、鈴木六段はほとんど時間を使わず指し、変わった将棋になりました。

郷田 対局中、控え室に来て、自分のペースでやる、と宣言していました(笑)。

(以下略)

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私はガチガチの振り飛車党だが、たしかに振り飛車を相手にするなら居飛車にしてもいいかな、と思う時がある。

実際に左美濃や居飛穴に組んで快勝すると、居飛車党に転向しようかなと一瞬思うこともある。

いつも自分が抱えている重い悩みが相手に乗り移っていったような爽快な気分にもなれる。

しかし、よくよく考えてみると、振り飛車に対して居飛車を指して、私は負けていることの方が多い。

特に私が大好きな石田流を相手が指してきた場合、大事な恋人を取られてしまったような嫉妬深い気持ちになり、「許さない。居飛車でボコボコにしてやる」と言いながら居飛車にして、石田流に捌かれて何度負けたことか。

自分の好きな戦法を相手にやられて負けた時のダメージは結構大きい。

そもそも、私が振り飛車に対して居飛車を指す時は、相振り飛車で勝てそうな予感がしなくなるほど弱気になっている時で、決して望ましい状況ではないことが多い。

「振り飛車党の棋士は、たいがい振り飛車破りがうまいんです」は、この言葉の通り、プロの世界の話、またはアマ強豪以上の世界の話なのだと思う。