升田幸三実力制第四代名人のような構想を見せた大山康晴十五世名人

将棋世界1991年12月号、「第4期竜王戦」より。

<2組>

 石田八段、児玉六段に続き、3人目のイスを決める2組の昇級者決定戦は大山十五世名人と真部八段の間で行われた。

 本局は真部が早めに▲6六歩と突いたために振り飛車党党首の大山が飛車先を伸ばす、という出だしだったが、その後早めに5筋から動いて2図となった。

 この後は普通の相矢倉に進むと思われたが、ここで大山の指した△2二飛が絶妙の一着で真部の構想を根底から打ち砕いた。

 △2二飛からは▲7九角に△2四歩▲同歩△2六歩が5筋で得た歩を最大に生かす攻めで以下▲3六歩△2四銀▲3七桂△3五歩▲2五歩△同銀▲同桂△同飛(3図)と進行した。

 こうなってみると先手の矢倉城がただ玉の逃げ場をなくすだけで、全く何の役にも立たない駒の塊と化し、2筋が受からなくなってしまった。

 結局本局は総手数42手という短手数で真部が戦意を失って投了、大山の1組昇級が決まった。

 昨年1組より降級した大山だったが、わずか1期での復帰は見事で、さすがというべきだろう。

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2図から△2二飛と回り2筋から逆襲する指し方は、まるで升田幸三実力制第四代名人の将棋を見ているような気持ちにさせられる。

とにかく、アマチュア振り飛車党には大喜びされそうな手順。

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大山康晴十五世名人はこのとき68歳。

2図からの手順もさることながら、亡くなる前年、わずか1期で竜王戦1組に復帰するのだから、多くの人から言われているように、まさしく怪物だ。