「将棋の日・次の一手名人戦」で優勝してしまった棋士

将棋世界2001年2月号、神吉宏充六段(当時)の「今月の眼 関西」より。

 いやあ皆さん、12月9日にNHK教育で放送された『将棋の日』の番組は見てもらえましたか?何、見ましたか!で、その中で次の一手名人戦ってありませんでしたか?ふんふん、あったでっか…それでや、その次の一手名人に選ばれた人は覚えてまっか?何々、大阪から来た水色の服の男で、棋力は「谷川さんよりちょっと弱いぐらい」って言うてたて…それ私ですがな!

 ホンマに思わぬハプニングでしたがな。ゲスト席で何げにカード出してたら、気が付くと20人ぐらいに絞られていて、壇上に上がる羽目になったんですな。でもすぐ間違えるやろから、洒落の一つでも言うて帰ろと思てたら…こんなこと前代未聞やて。連盟関係者はヒヤヒヤするし、口の悪い先崎八段なんか「いや、神吉さんの事だから、あのまま辞退しないで賞品持っていくんじゃないかと思ってましたよ」ですわ。ホンマに辞退せんかったら、連盟からどんな処分くらったんやろなあ…???

 そう言う先ちゃんもえらいミスしたんでっせ。指定局面10秒将棋トーナメントのリハーサルで、賞品の張子の虎を「これが噂に聞く張り子の虎か…実物見たの初めてだなあ…あっ!!」と言って、頭の部分を落としてもたんですわ。一瞬何が起こったかわからなかったスタッフも飛んできて「…これってやっぱり壊れてますよネ。どうしましょう」と慌てるばかり。そこで村上アナウンサー、慌てず騒がず「大丈夫ですよ。道具さんに頼めば何とかなりますよ」。ホンマかいなと思ったが、これが驚くなかれ、本番ではきれいに直っていた。恐るべし、NHKの道具さん!

 さあ、恐縮したのが先ちゃん「ホントにすいませんでした」と謝っていたが、仲間から「こうなったら、壊した責任で優勝するしかありませんね」と言われ、しばらく考えた先ちゃん「…そうか、ボクが優勝するしかないのか」。

 結果は既報の通り、見事先崎八段優勝。たいしたもんやがな。でもな先ちゃん、ワシが次の一手名人を辞退したように、優勝辞退せんかいな!ほんなら世間は「やっぱり将棋パトロールコンビはやることが違う!」って言うてくれるで。張子の虎は谷川浩司九段に「新庄の抜けたあとはこれでカバーして下さい」とでも言うてあげたら、そら感動してくれてたで。どや!

(以下略)

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NHK Eテレで今日の10:00から、11月12、13日に静岡市の静岡市民文化会館で行われた「第42回将棋の日」の模様が放送される。

次の一手名人戦は「将棋の日」の昔からの名物企画だが、棋士が最後まで当たり続けてしまったのは、後にも先にも神吉宏充六段(当時)だけ。

この2年前には丸山忠久八段(当時)が当たり続け、残り5人のところで不正解となっている。

丸ちゃん、舞台へ上る。

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張子の虎は、虎の形をした首の動く張り子のおもちゃだが、会話の中で使われる場合は、見掛け倒しの人、弱いくせに虚勢を張っている人、首を振る癖がある人、主体性がなく人の言うことにただ頷いている人、などを意味している。

張子の虎自体は何も悪いことをやっていないわけで、張子の虎が少し気の毒に思えてくる。