村山聖八段(当時)と「木を植えた男」

将棋世界1995年11月号、大崎善生編集長(当時)の「編集後記」より。

 最近、ビデオで映画を観ている。芸術の秋という訳でもないが、たまたま『スピード』を観たのがきっかけで火が点いてしまった。所司さんの一押しは『フロムビヨンド』というホラー映画。あの虫も殺さないような彼がホラーを好きだったとは…。村山君は『木を植えた男』というロシアのアニメがNo.1といっていた。20本観て『羊たちの沈黙』が心に残る。もっともっと観るぞ。

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所司和晴六段(当時)が一押しの「フロム・ビヨンド」は、シッチェス国際ファンタスティック映画祭の最優秀SFX映画賞に輝いた1986年の作品。監督は「死霊のしたたり」などを手掛けたスチュアート・ゴードン。

Amazonでの紹介文は次の通り。

人間の脳の深淵を刺激し、第六感を増幅させる実験に没頭する科学者プレトリアス(T・ソレル)が、研究室で無残な変死を遂げた。容疑者として逮捕された助手クロフォード(J・コムズ)の精神鑑定に当たるマクマイケルズ女医(B・クランプトン)は、彼の異様な言動に興味を抱き、惨劇の舞台となった研究室で禁断の実験を再開。すると、時空を超越した別次元の扉が開き、太古の人食い生物が出現。死んだはずのプレトリアス博士がおぞましい異形の怪物と化して現世に舞い戻ってくる…。

”人間の脳に秘められた可能性を探る実験”ということが、将棋にも結びつきやすいテーマだ。

そのような実験をしたおかげで、研究所は地獄絵図と化すという。

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村山聖八段(当時)がNo.1と言っていた『木を植えた男』は、1987年に、カナダのアニメーション作家フレデリック・バック監督・脚本により制作されたアニメ映画で、フランスの作家ジャン・ジオノが1953年に発表した短編小説『L’Homme qui plantait des arbres』が原作となっている。時間は約30分。1987年アカデミー短編アニメ賞受賞。日本では、1980年代後半から1990年代前半にかけて、日本語訳版がLD・VHSで販売されており、ナレーションは故・三國連太郎さん。

あらすじは次の通り。(Wikipediaより)

40年ほど前の1913年6月、フランスのプロヴァンス地方の荒れ果てた高地をあてもなく旅していた若い「私」は、この荒野で一人暮らしをしている寡黙な初老の男に出会う。近くには泉の枯れた廃墟があるだけで人里もないことから男の家に一晩泊めてもらうことになった「私」は、男がドングリを選別しているのに気付く。手伝おうと進言した「私」だったが、男は自分の仕事だからと言って断る。
翌日、男がこの地で何をしているのか気になった「私」は、もう1日ここに滞在したいと言うと、男は構わないという。はじめは散歩と称して男の後をついて歩いていた「私」だったが、男から「何もすることがないなら一緒に来ないか」と誘われて、男と連れ立って荒れた丘へ登る。そして男は、前日選別していたドングリを植える。
「私」は男に様々な質問をし、男はそれに答える。男の名前がエルゼアール・ブフィエであること、55歳であること、かつては他所で農場を営んでいたこと、一人息子と妻を亡くしたこと、特別にすることもないのでこの荒れた土地を蘇らせようと思い立ったことなど。ここが誰の土地かは知らないが、3年前から種子を植え始め、10万個植えたナラの種子の多数は駄目だったが、1万本ほどは育つ見込みがあるという。ナラ以外の植樹も計画していると話すブフィエと「私」は、その翌日に別れた。
翌1914年から第一次世界大戦が始まり、従軍した「私」はブフィエを思い出すこともなかった。5年後に戦争が終結し、わずかな復員手当てを貰った「私」は、澄んだ空気を吸いたいという思いから、再び1913年に訪れた荒野へ足を運ぶ。ブフィエや彼の植樹活動のことを思い出しながら廃墟を過ぎ、かつての荒野に近づいた「私」は、荒野が何かに覆われているのに気付く。
ブフィエは変わらず木を植え続けていた。戦争のことなど全く気にせず木を植え続けていたというブフィエの言葉に、「私」は納得する。「私」とブフィエは連れ立って、10年前の1910年に植えられ、荒野を覆うように育ったナラの森を歩く。「私」の背丈より高く成長したナラの木々に、「私」は深い感銘を覚える。ほかにも「私」が従軍していた1915年に植えられたというシラカバの森は、「私」の肩のあたりまで成長していた。
1920年以降、「私」は年に1度は必ずブフィエを訪ねるようになる。ブフィエの計画は常に成功したわけではなく、1年がかりで植えたカエデが全滅するなど悲劇に見舞われることもあったが、ブフィエは挫けることなくひとり木を植え続ける。木々の復活はあまりにゆっくりとした変化だったため、周囲の人間はブフィエの活動に気付かず、ときどき訪れる猟師などは森の再生を「自然の悪戯」などと考えていた。また、森林保護官が「自然に復活した森」に驚き、そこに住むブフィエに「森を破壊しないように」と厳命するなどの珍事まで起こる。しかしそういったことも関係なく、ブフィエは木を植え続ける。
その後も第二次世界大戦など様々な危機があったが、「私」の友人である政府役人の理解と協力などもあって、森は大きな打撃を受けることはなかった。ブフィエはそれらも気にせず木を植え続け、いつしか森は広大な面積に成長していた。森が再生したことで、かつての廃墟にも水が戻り、新たな若い入植者も現れ、楽しく生活している。しかし彼らはブフィエの存在も、ひとりの男が森を再生したことも知らない。
ブフィエは1947年、バノンの養老院で安らかに息を引き取った。

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髪の毛や爪にも命があり、それを切るのは忍びないという思いから髪の毛や爪を切ることを極端に嫌がった村山聖八段(当時)。

そのような村山聖八段だからこそ、このアニメ短編により強く惹かれていったのだろうし、それ以外の様々な思いもあったのだろう。

映画館で上映されたわけでもなく、LD、VHSでしか販売されなかったこの作品を、村山聖九段はどこで知ったのだろう。

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作家の新井満さんは、『木を植えた男』を絵本によって初めて知り、非常に感動をする。

すぐさま(1995年)フランスを訪ね、ジャン・ジオノのお墓参りをするとともに、ジオノ未亡人や次女とも会い、翌年にはジオノをオマージュする写真紀行文集『木を植えた男を訪ねて──ふたりで行く南仏プロヴァンスの旅』を発表する。

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この辺の経緯は、新井満さんが2002年の 「ソフィア」で書いている。→『木を植えた男』と出会って(日本ペンクラブホームページ:PDF)

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フレデリック・バックは、高畑勲・宮崎駿に影響を与えたとされており、ジブリ美術館の「三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー」でも『木を植えた男』が紹介されている。

村山聖八段が、時代をかなり先取りしていたことがわかる。

 

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