先崎学五段(当時)「郷チャン危うし」

将棋世界1992年3月号、先崎学五段(当時)の「先チャンにおまかせ VOL.3 走れ、自由萬歳」より。

 さっそく、初日の夜に歓迎会を開いていただき、大阪から同行の本間四段、畠山鎮四段(通称チン君)と合流して、広東料理を痛食する。上海蟹や菜胆鮑翅(フカヒレのスープ)の美味いことよ。飛行機疲れも睡眠不足も全く忘れて、食いに食いまくっていると、ふと、ボヵァ幸せだなあと感じた。当然酒店直行。激眠。

 二日目、昼の香港の街に出て、ショッピングを楽しむ、と、いっても、なにを買うわけでもないのだが、顎の尖った兄チャンやデップリと太ったオジチャンを相手に、チョッと高いヨとかディスカウントプリーズなどと値切る駆け引きを十分愉しみ、結局なにも買わないのである。

 夜はまた西堀さんと食事。富麗華酒店(フラマインターコンチネンタルホテル)のロビーで待ち合わせをして、北京料理を御馳走になる、北京ダック、京爆明蝦(車エビのチリソース)。そしてとどめに蛇湯。気持ち悪いなどというなかれ、これがうまいのである。香港に来た目的の一つが、この蛇のスープを飲むことだった。とろりとしたスープの中に、白い細切れのような蛇の肉が入っている。

 中国料理はあんまり好きじゃないんだと強がっていた郷チャンの目が輝いている。本間さんは相変わらず老酒をくらっているし、チン君は、舌ったらずな声で、喋りまくっている。

 食事の後は、ナイトクラブ『ボルボ』に案内される。豪華絢爛、酒池肉林。ウヒャウヒャのルンルンルン。夜は、果てしない。ふと気づくと、郷チャンの隣に座ったホステス(小姐)の目が潤んできた。郷田に、女の子には日本の映画スターといえと教えておいたのが成功したようである。スワ、貞操の危機!

 郷チャン危うし。しかし、郷田は、踵を返すと、さっと店を出た。色男は、シャイなようである。

(つづく)

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本間博四段(当時)と畠山鎮四段(当時)も登場。

大阪での飲み会関連のエピソードで登場率の高い本間博四段が香港にも来てくれるのが嬉しい。

畠山鎮四段の”舌ったらずな声”は絶妙な表現だ。

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昨日の記事でリンクをしている「香港夜総会」の舞台となっているのが、ここに出ている「ボルボ」。

香港夜総会

現地の人が一緒なら、安心して飲めたことだろう。

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私にとっての香港3日目の夜、合流した顧客と一緒に行ったのが、先崎学五段(当時)の旅行記の2日目と同じく、フラマホテルの中国料理レストラン→ボルボだった。

まだ会社の現地法人がなかった頃、香港の出張経験者から教えてもらったコースだ。

香港の出張経験者は、現地に赴任している日本人顧客から教えてもらっているわけで、このコースは知る人ぞ知る、当時の定跡に近いものがあったに違いない。

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フラマホテル(2001年に閉館している)の中国料理レストランでは、やはりここへ行ったら絶対に食べてみるべきと言われていた北京ダックを注文した。

この時は、北京ダックの皮を取り除いた本来の肉の部分とカシューナッツの炒め物も出て来て、「北京ダックの肉本体はどうしているのだろう」という長年の疑問に一つの回答をもらったような気持ちになった。

ただ、不味くはないけれどもそれほど美味しいとも思わなかったので、北京ダックの肉本体だけで勝負するのは難しいと感じた。

もっとも、肉自体が美味しかったら、皮だけを食べるという発想が登場するのは1000年以上遅れていたかもしれない。

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蛇のスープは飲んだことがないが、調べてみると、3~5種類のヘビが入っているようで、当然のことながら毒蛇も含まれているという。

中国料理では、ツバメの巣やフカヒレまでもスープにしてしまうのだから、蛇のスープがあっても全く不思議ではない感じがする。

蛇のスープ自戦記→蛇王協 香港で蛇スープ食べちゃいました☆(ぱきらの中国(恵州)生活 ブログ)