「芸は身を助ける」とは限らない

将棋世界1981年3月号、能智映さんの「恐るべき雀士たち」より。

 棋士たちの麻雀は、こんなに恐ろしい。根っから勝負が好きだから、あとを見ずに直進してくるのである。

 しかし、棋士の全部がそうではない。A級棋士の中でも、加藤一二三十段、板谷進八段、内藤國雄九段、石田和雄八段、木村義徳八段と、その半数は牌に手を出さないし、若手でも、ホープの土佐浩司四段など「ぼくはやり方を知りませんので―」と、もっぱら麻雀牌を全部裏返しにして”神経衰弱”を楽しんでいる。

―トランプのカードは53枚、麻雀の牌は136枚、―それなのに記憶力よく、それをすいすいと2枚ずつ合わせていくのだから、やはり棋士の頭脳は並のものではない。

 余談が楽しい話になるが、その土佐はごく最近、親友の真部一男七段の妹さんと結ばれた。

 聞けば、真部のところへ集まり、カケごとをしていた悪童たちの中で、土佐一人がポツンと眺めていたので「それがたまらない魅力だった」のだという。

”芸は身を助く”ではなく、”芸のない者が一生の伴侶をモノにした”というのも面白い。

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30cmの高さのリーゼント、モヒカン刈り、ピチピチのアイパー、パンチパーマなどの髪型のいかにも不良っぽい生徒の中に、普通の髪型で学究肌で真面目な生徒が一人いた、というような図式。

とはいえ、その真面目そうな生徒が必ずモテるとは限らず、真部一男九段の妹さんは、そのようなことがなくても、土佐浩司四段(当時)を好きになっていたのだと思う。

あるいは、真部一男七段(当時)が「妹にぜひ」と思って、賭け事をやらないにもかかわらず土佐四段を家に連れてきていたとも考えられる。