将棋世界2003年6月号、佐藤康光棋聖(当時)の第61期A級順位戦プレーオフ〔対 羽生善治竜王〕自戦記「挑戦権を逃す」より。
先日ゴルフに行った時、前の組のあまりのスロープレーぶりに驚いた。時間をかけ過ぎて、度を越している。明らかにマナー違反なのだが見ていると上手くなりたいという一心のあまり本人達が気が付かず熱中しているためである。悪気がある訳ではない。不思議に不快に感じなかったせいか、注意する人はいなかった。
また最近対局の朝、通勤の時間帯。地下鉄に乗ると、前に座っている若い女性の人がパンを食べ、飲み物を飲みながら雑誌を読んでいる。これは違反ではないがあまり好ましいとは思えない。親なら注意するだろうが、もし仕事が忙し過ぎるあまり、というなら仕方のない事なのかもしれない、と思った。しかし笑ってしまったのがその人が読んでいる雑誌のページが「品格とは何か」と大きく見出しが付いている。これなら普通、気が付きそうなものだが。
他人を見ているとそうなのだが自分自身では全く気が付かない事も多い。
以前タイトル戦を戦った次の日、先崎八段に指摘された事がある。
対局中、記録係に棋譜用紙を見せてもらう事がある。他の棋士もよくやっているが、棋譜や消費時間の確認の他、心を落ち着ける時もある。
その用紙を返す時、どうも私は記録係の手や机に置く前に、直前でパッと投げ返す癖があったらしい。
対局に没頭していたせいか、全く気が付かなかったのだがえらく気になったらしい。確かに好ましい事ではないので、以後気を付ける様にしている。
今月は羽生竜王との順位戦プレーオフの将棋を振り返ってみたい。
(以下略)
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パンを食べながら飲み物を飲み、なおかつ同時に雑誌を読むのは、かなり高度なテクニックが必要だと思われるが、その女性は膝に雑誌を置いていたのだろう。
なかなかの豪傑だ。
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女性が車内で化粧することに対して非難の声が多いが、他の人に迷惑がかからないのなら、私は全く問題がないと思っている。
車内での食事はケースバイケース。
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車内というと、昔は朝の通勤時は新聞を、夕方はスポーツ紙や夕刊紙、週刊誌を車内で読む人が多かった。
しかし、今はそのような人を見かけることの方が少ない。
みな、スマホを見ている。
全員が全員、電子版の新聞や週刊誌を見ているとは限らないので、昔に比べると少なくとも車内では新聞や週刊誌を読む人は確実に減っていると言ってよいだろう。
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昔の夕刊フジの詰将棋欄で出題を担当していたのが遠藤龍之介さん。
遠藤さんは作家の故・遠藤周作さんの長男で、現在はフジテレビ専務取締役。今年の5月から、日本将棋連盟の非常勤理事も務めている。
1989年のことになるが、私は渋谷の将棋道場で手合がついて、遠藤さんと一度対局をしたことがある。夕刊フジで名前を知っていたのと、遠藤周作さんに顔が似ていたので、目の前の遠藤龍之介さんがあの遠藤龍之介さんであることがすぐにわかった。私の大野流三間飛車に対し、遠藤さんの居飛車急戦。遠藤さんは強豪なので、もちろん私の負け。
品の良い落ち着いた居飛車党とはこのような将棋なのか、と非常に感心させられた棋風だった。
Wikipediaによると、囲碁・将棋チャンネルの番組、お好み将棋道場プロアマ指導対局(プロの角落ち)で、遠藤さんは佐藤康光九段に勝っているという。
今回の日本将棋連盟非常勤理事就任もそのような縁からだったのかもしれない。
絶妙手だと思う。