大山康晴十五世名人「私の仲間にこういうのがいる」

将棋世界2004年4月号、「時代を語る・昭和将棋紀行 広津久雄九段」より。聞き書きは木屋太二さん。

 駒を積み重ねること。これが私の特技です。世間によく知られるようになったのはNHKのテレビ番組「私は誰でしょう」に出演してから。

「この人は誰でしょう?」「将棋の歩を逆さまにして全部の駒を積み上げてしまいます」。そんな問題と解答があり、私が実演する。公開放送の生番組です。出演者はリハーサルでは成功するが、本番で失敗する人が多い、と聞かされていたが、私は本番で40枚の駒を積み上げた。

 そもそもこの話は大山名人が番組に出た時、司会の八木治郎さんから、「どなたか珍しい技を持った方を知りませんか?」と尋ねられ、「私の仲間にこういうのがいる」と語ったのがきっかけでした。どうして、こんなことを始めたのか?子どもの頃、近所のおじさんが私を呼び、「歩が逆さまに立っている。その上に駒が乗っている。どうだ出来るか」と言う。その人は私に将棋を負かされるものだから、何かで仕返ししようと思ったらしい。

 実はニカワで駒をくっつけたのだが、子どもの私にはその細工が分からない。挑戦してみたが最初の1週間はまったく積めない。私は負けん気が強かったから、いろいろな方法を試してみた。ある時、逆さまにした歩の上に木を乗せてみたら出来た。置き方のコツをつかんだ。1回出来たら、もう平気という状態になった。自転車も一度乗れるようになったら忘れない。それと同じです。

(以下略)

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一番最初に歩を逆さまに立てて、その上に残りの駒39枚を積み上げた広津久雄九段。

信じられないような芸だが、本当に実現していたのだから凄い。

子供の頃にコツをつかんだのが大きいと思う。

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NHKのテレビ番組『私は誰でしょう』は、調べてみると、人気クイズ番組だった『私の秘密』が正確なようだ。

1955年から1967年まで放送されており、初代の司会者はNHKアナウンサー時代の高橋圭三さん。

二代目の八木治郎さんは1962年から1966年まで司会を務めていたので、大山康晴十五世名人や広津久雄九段が出演したのはこの頃ということになる。

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八木治郎さんというと、フリーになってからの『万国びっくりショー』での司会や『野生の王国』のナレーションが思い出される。

『野生の王国』というと、蛇が出てくる回が好きだった。実際に目の前に蛇が現れたらいつもより5倍は俊敏に逃げ出すほど蛇は苦手だが、テレビの画面を通しての安全な場所から見る分には、怖いもの見たさでよく見ていたものだ。

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NHK出身で民放で活躍した人といえば小川宏さんもいる。フジテレビ系朝の『小川宏ショー』はとても良い番組だった。

ある時、エレベータが開いたら小川宏さんが一人で乗っていた。今まで生で会ったことはないのに条件反射的に「おはようございます」と言いそうになったほど朝の顔だった。

その小川宏さんがNHK時代に先輩アナウンサーだった高橋圭三さんから受けたアドバイスが「顕微鏡で調べて望遠鏡で放送しろ」だったという。

「顕微鏡で調べて望遠鏡で放送しろ」

随筆でもノンフィクションでも小説でも観戦記でも、あるいはビジネス上のプレゼンでも、物事の表現の際のすべてに当てはまる名言だと思う。