将棋世界2005年9月号、「森内俊之名人&千葉涼子女流王将フレッシュ対談」より。
―森内名人、名人初防衛おめでとうございます。今回は、初タイトルを獲得した千葉涼子新女流王将から、森内さんにいろいろインタビューをしていただこうという企画です。どんな質問が飛び出すか、編集部としても楽しみです。よろしくお願いします。
千葉 森内先生、答えたくない質問には無理に答えなくて結構ですから(笑)。
森内 私も聞きたいことがたくさんあります(笑)。
(中略)
千葉 この質問も直球すぎるかもしれませんが(笑)。名人戦の第1局に負けたときの心境を聞かせてください。私は、タイトル戦の初戦に負けるとすごくショボンとしてしまうんです。
森内 王将戦がひどい内容だったので、そのときから比べるとかなり調子が上向いてきたと感じました。自分としては第2局への自信へ繋がりましたね。
千葉 お聞きにくい質問ばかりですみませんが、第5局、第6局で敗れたとき、どのように気持ちを立て直したんでしょう。
―苦境のときのことを聞きたいわけですね。自分に置き換えたときの参考になる質問ばかりですね(笑)。
千葉 だって、いい時は私だって元気よく指せますから(笑)。
森内 別に苦境とか思っていなかったです。当初からちょっと厳しい勝負だと思っていたので、3勝3敗までいければ自分としては成功という感じでしたし、最後の一番が指せるっていうのはすごくありがたいと思っていました。
(中略)
千葉 家庭では勝負の話などしますか?
森内 いや、対局が終わって家に帰ってきても結果は言わないですし…。
千葉 ああ、言わないんですか。へぇ。
森内 タイトル戦だと中継とか電話がかかってきたりで結果が分かることが多いみたいですけど、ふだんの対局では言わないですね。負けたときでも気持ちを引きずって帰らないので、結果は分からないと言っていますね。結婚するときに、師匠(勝浦修九段)のお宅にごあいさつに行ったのですが、奥様が妻に「あなたも戸を開ける音で分かるようになるわよ」とおっしゃっていたのですが、いまだに全然分からないみたいです(笑)。
千葉 私は負けたときは「負けた~」って言って帰りますから(笑)。
(中略)
―森内さんは今回、名人を初防衛しました。千葉さんも来期は防衛戦に臨むわけですが、最後に森内名人からタイトル防衛のコツをお願いします。
森内 そんなこと、初めて防衛した人間に分かるわけないじゃないですか。たくさん防衛している人に聞いてください(笑)。とにかく、よいコンディションで臨んでいい将棋を指すことですよ。そうすれば結果は自然に出ますから。
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森内俊之名人(当時)は、竜王、王将と立て続けに失冠して、この年の名人戦に臨んでいる。
現在の状況だけを見て嘆くのではなく、少し前との比較で上向いていれば良し、と考えるのが良い結果を生むようだ。
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「あなたも戸を開ける音で分かるようになるわよ」
これは、対局終了後、まっすぐ家に帰った場合はもちろんのこと、酒を飲んだり麻雀をして朝帰りになったとしても、戸を開ける音で勝敗がわかるということ。
勝浦修九段の時代の対局は終わるのもかなり遅い時間だったわけで、奥様は帰ってくるまでずっと寝ずに待っていることが多かったのだろう。
勝浦九段が日も高くなってからの朝帰りが多かったとしたら、普通に奥様が起きてからの話になるが。
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森内俊之名人と千葉涼子女流王将(当時)は、これより前のNHK将棋講座の講師と聞き手という関係だった。