升田式石田流の気になる変化と対策

将棋世界2005年11月号、山岸浩史さんの瀬川晶司氏プロ編入試験六番勝負第3局観戦記「プロの時間 アマの時間」より。

初手からの指し手
▲7六歩△3四歩▲7五歩△8八角成▲同飛△4五角▲7六角△4二玉▲3八銀(1図)

 タイトル戦よりも多い報道陣のフラッシュの放列が去るや、今度は盤上に閃光が走った。久保3手目、▲7五歩!

 早石田は久保のレパートリーの一つではあるが、彼は私の取材に「先手なら四間飛車」と答えていたのだ。局後にそのことを言うと久保は悪びれずもせずに言う。

「盤の前に座ると第六感が働いたんです。そもそも銀河戦(久保先手)で▲7五歩とすべきでした。早指しなら力戦に持ち込んだほうがプロは有利なんですから。それを玉の薄い藤井システムにするなんて、瀬川さんをなめていました」

 一方、瀬川さんは「久保先手なら四間飛車、それも意地を張ってまた藤井システム」と予想していた。プロとアマの勝負への意識の違いを垣間見た気がした。

 とはいえ早石田も瀬川さんの想定範囲内ではあった。持ち時間も十分にある。すぐに△8八角成が用意の対策で、▲同銀に△4二玉▲7八飛△4五角の予定。先に△6二玉では▲6六歩から石田流本組(久保の得意形)をめざされるのだ。

 だが、久保は▲8八同飛!見たこともない手だと思ったが、じつは実戦例が一局ある。前期の銀河戦、ほかでもない▲久保-△豊川六段戦である。

 瀬川さんはその将棋を知らなかったが、▲8八同飛の局面は「指してみたい将棋」のひとつとして想定していた。本譜のように△4五角▲7六角△4二玉のとき▲3八金の一手とみて、先手が美濃に囲えなくなるから面白いと思っていたのだ。▲3八銀では△5四角から角交換になったあと△2八角の傷が残る。久保-豊川戦も△4二玉まで本譜と同様に進み、そこで久保は▲3八金と指した。

「早指しだから読まずに金を上がりましたが、▲3八銀も成立するのではないか、とそのときから思っていたんです」

 はたして6分で久保▲3八銀(1図)。試験将棋で、新手が出た。

1図以下の指し手
△5四角▲7八飛△4四歩▲1六歩△6二銀▲4八玉△3二玉▲3九玉(2図)

 2図までに△2八角が成立するかが、本局の一つのポイントだった。

 たとえば△4四歩のところで△7六角▲同飛△2八角はどうか。簡単に香が取れそうだが、▲5五角△3三桂▲7四歩△同歩▲8二角成△同銀▲1八飛で角が殺される。以下△3九角打とつなぐ粘りには▲3六歩が▲3七銀をみて好防で、後手がまずい。△4四歩はこの変化の▲5五角を消したものだ。

 次の△6二銀も欠かせないところ。瀬川さんは△3二玉のところで△7六角~△2八角を決行するつもりだった。今度は▲1七香と逃げる手があるが、美濃に囲わせない得は大きい。だが、香車は逃げないのだ。△2八角以下、▲4六飛△1九角成▲4四飛△4三香▲同飛成△同玉▲4六香△3二玉▲4一香成△同玉▲4三角というすごい変化で、先手優勢になるのである。瀬川さんがこの罠を見破り、自重したのはさすがというべきだろう。だが、△2八角といけないのではそもそも△4五角と打つ作戦が空振りしたことになる。新手▲3八銀の成否は今後の研究次第だろうが、久保がおそらくこの展開を想定して選んだ早石田は功を奏したといえる。

 形勢にこそまだ差はないが、瀬川さんは△4四歩以下の3手で40分近くを消費してしまったからである。

(以下略)

* * * * *

升田式石田流、▲8八同飛ではなく▲8八同銀の状態で同じような心配が発生する。

個人的には今まではA図から▲1七香としていたが、勝率は悪かった。

▲5五角△3三桂▲7四歩△同歩▲8二角成△同銀▲1八飛があれば世界は変わる。

しかし、▲7四歩に△6二銀とされた場合は、▲7三歩成△同銀▲同飛成△同桂▲同角成となるのだろうか。

どちらにしても乱戦だ。

升田式石田流ファンには避けては通れない変化。