「『月刊対局日誌』があれば売れること間違いなし」

将棋ジャーナル1982年7月号、「マスコミ切り抜き帖」より。

 将棋マガジンの編集長が変わった。ベテランの清水孝晏氏から、沼春雄四段にバトンタッチである。

 昭和52年12月、将棋世界一冊でカバーしきれぬ初心者層を狙って発刊されたマガジンだが、初級向き雑誌というのは手間がかかる上に、営業的には難しい。出版社によると、将棋の本ならば出れば買う、という棋書マニアが数千人はいるそうで、将棋の本は手堅い、と言われるゆえんなのだが、初心者はそうは気軽に雑誌まで手を出してはくれない。

 今のマガジンの目玉は何といっても河口五段の「対局日誌」である。これを読むためだけにマガジンを買っているという強豪も多い。いっそ対局日誌だけで全ページを埋めた、「月刊対局日誌」があれば売れること間違いなし、とか?本誌の対談で河口氏は「将棋の風俗史を書きとめておきたかった」といっているが、観戦記でも講座でも評論でもない将棋文の新分野を対局日誌が開拓したことは確かだろう。

 しかし、マガジンも対局日誌ひとつが目玉ではやはり淋しい。

 将棋界の課題のひとつ、プロと超アマトップの問題は少しずつ雪解けが近づいてきたようだ。次の課題は、将棋ピラミッドの裾野の拡大であろうと思う。初心者の指導法というのは昔からこのかた、実戦と詰将棋と定跡と相場が決まっていて進歩が見られない。五十嵐八段、原田八段等、初心向きの講座を手がける人は何人かはいるが、未だに体系的な指導法はまとまっていない。手筋、格言、定跡など最低の基本を集大成したものぐらいはあっても良いはずなのに。私の知る範囲では二上九段著『終盤戦寄せの妙手』金園社刊のみである。この本の「囲いの崩し方」の基本から応用までの攻撃パターンの豊富さはちょっと例がない。

 沼編集長に変わった7月号では島四段のワンポイント講座が「偶数金は筋悪」とか「狙われている歩は突こう」とかの新格言を使って面白い。(何故か目次では無視されているが)

 初心向きの講座はネームバリューは関係はない。問題は、著者の力量と意気込みである。

 初級講座は、これからの将棋ジャーナリズムのひとつの課題であろう。(美濃)

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「初級向き雑誌というのは手間がかかる上に、営業的には難しい」

これは考えさせられる問題で、1996年に将棋マガジンが休刊になったのも、1997年に初中級向けに方向転換した近代将棋が2008年に休刊したのも、もちろんそれ以外の理由もあっただろうが、このことが大きな原因の一つであったことは間違いない。

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冷静に考えてみると、初級向け雑誌を初級者が購入してくれたとしても、その初級者が実力を上げて有段者になればその初級向け雑誌から離れていく可能性が高い。

そうなると常に新しい読者の獲得が必要になるわけで、数年単位ならともかく長い年月で考えると、構造的にもなかなか厳しいことがわかる。

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他誌のことにも遠慮のない切り口で迫る将棋ジャーナル。

凄い雑誌があったものだと思う。