近代将棋1990年8月号、 大山十五世名人の対談・対局「安沢英雄氏の巻」より。
安沢 ある方から聞いたことなんですが、大山先生に「タバコをやめる法」を聞いたら、「それは簡単ですよ。いま直ぐやめなさい」と言われたそうです。たしかに今すぐにやめればやめられますね。
大山 思ったときにね。
安沢 先生は前には喫ってられたのですか。
大山 私は昭和34年にやめました。それまでは100本ぐらい喫ってました。
安沢 えっ、100本。
大山 いつもポケットにピースがはいってました。
安沢 そうですか。私はやめるんですが、長続きしないんですね。
大山 対局のときはカンを一つと、ピースの箱を5つぐらい持ってました。
安沢 はあ。
大山 その当時は火鉢だったでしょ。なくなると、そのなかから拾って……。
安沢 やめたのはやはり健康を気づかって、ですか。
大山 私の場合はそうでないですね。持ち時間が少なくなり夜中になり、そういうときマッチで擦ったりしてますと何秒かロスが出るんですね。最後の秒読みのとき、59秒しかないものを仮に7秒くらいのロスが出たら大きいですよ。それならやめたほうがいいじゃないか。
安沢 仕事にプラスにならないから。
大山 そうですね。疲れてきて思考力がにぶって、なおかつタバコに火をつけたりしたら、損ですよ。(笑)
安沢 タバコを吸わないと、こんどは人のタバコが気になりますでしょ。
大山 対局はいつも扇子を持ってますよ。あれはリズムをとるためではなくって、相手がタバコを吸ったときには暑い暑いと扇子で風を向こうへやるんですね。煙をはらうためなんですね。(笑)
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タバコをやめる法。「それは簡単ですよ。いま直ぐやめなさい」
思い立ったが吉日、それでやめることができれば最高だが、このようなことをできるのは、世の中で大山康晴十五世名人くらいしかいないと思う。
金持ちになる法を問われて、「それは簡単ですよ。いま直ぐ金持ちになりなさい」というのと同じような問答だ。
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タバコをやめた動機が「持ち時間が少なくなり夜中になり、そういうときマッチで擦ったりしてますと何秒かロスが出るんですね。最後の秒読みのとき、59秒しかないものを仮に7秒くらいのロスが出たら大きいですよ。それならやめたほうがいいじゃないか」の一点集中型。
将棋のためには、好きなものでも何のためらいもなくやめてしまう。
神がかり的な精神力と意志の強さだ。
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安沢英雄さんは、オリジン東秀株式会社の設立者。
この頃は「中華東秀」を展開しており、後に「オリジン弁当」も立ち上げている。