将棋世界1991年5月号、谷川浩司竜王(当時)の連載自戦記〔第58期棋聖戦 対 小野修一五段〕「一瞬の逆転」より。
初めてタイトルを取った人が、その後不調に陥る事を、タイトル獲得症候群と言った人がいるが、竜王症候群というのも存在するのではないか。
島七段、羽生前竜王の場合は初タイトルでもあったが、私も、竜王戦以降ここまで7勝7敗。
その間、王将戦、全日プロ、早指し戦などでチャンスを逃した。
この対局の前日も、NHK杯で南棋王に負けた。何となく帰りづらく、数人で遅くまで飲んでしまった(遅くまでとは言っても、日付は変わっていないのだが―)。
(以下略)
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初タイトル獲得後に調子を崩す棋士は多いが、竜王症候群は初めて聞いた。
竜王症候群は、初めて竜王を獲得した後に調子を崩す状態、という意味になるのだろう。
言われてみると説得力がありそうに思えたので、これ以降、竜王位を獲得した棋士の初獲得前年、初獲得年、初獲得1年後の勝率を調べてみた。(勝率は「棋士別成績一覧」のデータによる。赤字は獲得年度)
佐藤康光九段
1992年度 .766
1993年度 .704
1994年度 .550
藤井猛九段
1997年度 .625
1998年度 .729
1999年度 .688
森内俊之九段
2002年度 .591
2003年度 .719
2004年度 .527
渡辺明三冠
2003年度 .750
2004年度 .724
2005年度 .745
糸谷哲郎八段
2013年度 .650
2014年度 .769
2015年度 .556
広瀬章人八段
2017年度 .600
2018年度 .672
2019年度 .600(1/15までの勝率)
豊島将之竜王名人
2018年度 .636
2019年度 .688(1/15までの勝率)
竜王獲得後に調子が崩れたのが、佐藤康光九段、森内俊之九段、糸谷哲郎八段。
勝率に特に大きな変化がなかったのが、藤井猛九段、渡辺明三冠、広瀬章人八段。
そういう意味では、1993年度以降は、5割の確率で竜王獲得後に調子が崩れる、ということになるのだろう。
竜王獲得年の勝率が高いのは必然的なので、翌期に調子が崩れるか崩れないかの二つに一つ、と考えれば5割の確率は当然とも考えられるし、「5割の確率で調子が崩れる」と思うと恐ろしい感じもするし、何とも解釈の難しい数字だ。