羽生善治三冠(当時)「おじいちゃんになった時、おもしろい人生だったと思えるようになりたい」

近代将棋1993年8月号、炬口勝弘さんの「アングルショット’93」より。

 このほど「対談21世紀」と題して、羽生竜王VS赤井英和(映画「王手」の真剣師役)の対談が神戸六甲アイランド「アイランドシアター」の楽屋で行われ、この模様は6月下旬に中京テレビ、読売テレビ、日本テレビなどで放映された。

近代将棋同じ号より、撮影は炬口勝弘さん。

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将棋マガジン1993年9月号、読者の投稿欄「コマゴマ掲示板」より。

 6月27日深夜中京テレビで放送した「対談21世紀」を見させてもらいました。その番組に羽生竜王が出演されていました。

 対談相手は羽生竜王とつながりがなさそうな、俳優の赤井英和さんでした。お互いの夢とか、この仕事につくまでのいきさつなどを話していました。その対談した前日の対局は負けたと羽生竜王は言ってましたが、赤井さんと話をしていた時は、とてもイキイキしていたように見えました。

 羽生竜王の言っていた事で共感したことがあります。

「おじいちゃんになった時、おもしろい人生だったと思えるようになりたい」。

 本当にそうですね。羽生竜王、ぜひ夢に向かってがんばって下さい。

(岐阜県 Iさん 22歳)

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「対談21世紀」は中京テレビ制作の番組。

調べてみると、この対談以前には、江崎玲於奈さんと利根川進さんのノーベル賞受賞者同士の対談などもあったようだ。

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赤井英和さんは、俳優になる前はプロボクサーだった。

「浪速のロッキー」と呼ばれ、世界タイトル戦に挑戦したこともある。

この時の赤井さんは、「幻の街」という舞台に出演中。11月には渋谷・パルコ劇場でも上演され、赤井さんは第31回ゴールデン・アロー賞新人賞(演劇)を受賞している。

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「その対談した前日の対局は負けたと羽生竜王は言ってましたが」

「幻の街」がアイランドシアターで公演されていたのが6月、「玲瓏:羽生善治 (棋士)データベース」のデータによると、羽生善治三冠(当時)が1993年6月に敗れたのは1局だけ、ということから、この対局は、6月19日に行われた第62期棋聖戦五番勝負第1局(対 谷川浩司棋聖。午前中はホテルニューオータ大阪で指し始められ、午後からは隣接するNECホールに場所を移しての公開対局)と考えられる。

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と、少し時間をかけて調べたのだけれども、いとも簡単に答えが載っている記事があった。

将棋マガジン1993年10月号、産経新聞の保坂勝吾記者の第62期棋聖戦五番勝負第4局観戦記「睨む―その先は」より。

 第1局のときは、名古屋のテレビ制作会社のスタッフが、羽生竜王の取材にきていた。深夜番組で、ボクサーから俳優になった赤井英和との対談を作りたいとのこと。

 風雨の強いあいにくの天気で、ホテルから隣の公開対局場への移動は、傘が吹き飛ばされそうになった。カメラマンが対談の導入部に使うため、対局者にぴたりとついていた。

 名局と称賛されたこの一戦に、羽生は惜敗したが、翌朝は関係者が引きあげたあとまでゆっくりと自室で休み、何事もなかったような様子で対談場所の神戸へ向かった。

 後日放映された番組で、羽生は「ずっと自分に素直に生きている人は少ない。赤井さんはそこがすごい」と赤井の異色の経歴に感心。将棋については「ゼロか100かの感じが気持ちいい。負けが込んでくるとつらいだろうと思いますが。みんな努力しても報われない努力もあるかもしれない。けれど努力を怠ると必ず反発があるんですよ」と話していた。

 勝ち続けることの厳しさをごく自然に自覚している。夢は「タイトルを増やすこと。おじいちゃんになったとき、おもしろい人生だったとふり返ることができたらと思う」。疲れを知らない、挫折を恐れない羽生将棋に、いじわるなスランプはなかなか入り込めないようだ。

(以下略)

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冒頭の写真、二人の前にはそれぞれ「SUKIYAKI BENTO]が置かれている。

昼食として出されたものなのだろう。

神戸なので牛肉系に手厚い。

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「みんな努力しても報われない努力もあるかもしれない。けれど努力を怠ると必ず反発があるんですよ」

ペットに毎日の食べ物を与えても、特に猫などはあまり感謝をしてくれていないかもしれない。しかし、餌をあげなければペットは生きていられなくなるわけで、そのような一面では、努力とペットの餌は同じような位置付けと考えることもできる。

1999年に、木村一基五段(当時)も努力について触れている。

木村一基五段(当時)「”努力しても伸びるとは限らない。しかし伸びている人はみな、その人なりに努力している”と或る人が言った」

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「おじいちゃんになった時、おもしろい人生だったと思えるようになりたい」

本当に、自分もそうなれればいいなと思う。

羽生九段は常に進歩を続けているので、現在も同じことを思っているかどうかはわからないけれども、羽生九段のことなので、「おじいちゃんになった時」というのは90代になってからと考えているかもしれない。