竜王戦シンガポール対決〔羽生善治竜王-佐藤康光七段戦〕

将棋世界1993年12月号、グラビア「第6期竜王戦開幕 羽生善治竜王vs佐藤康光七段 シンガポール対決を、現地徹底取材」より。

 今年も竜王戦の季節がやってきた。挑戦者は佐藤康光。パワーアップしたその指し回しは、遂に頂点を狙う位置にやってきた。迎え撃つのは羽生善治。今年に入り4つのタイトル戦に勝利を収め五冠を保持する凄い奴―ともに勝率8割を超える二人の争いはシンガポールで幕を開けた。

将棋世界同じ号より、撮影は弦巻勝さん。

 熱帯の緑と林立する高層ビル。整然と開発されていく国土を二人が歩いていく。

 対局の2日前に行われた市内観光。最初に、シンガポールのシンボル、マーライオンを近くの公園から見学する。マーライオンとは、頭がライオン、体が魚という奇妙な動物で、この国の歴史を表しており、象徴にもなっている。

 この日は朝から晴れ上がり常夏の国の日差しは強い。気温も30度を超え、みな、まぶしそうに歩いていく。

 30分ほどの散策後、Botanic garden(植物園)へ向かう。ここでは160km²という広大な敷地が、原生林がそのまま生い茂るジャングル地帯、蘭の花が咲き乱れるパビリオンなど、さまざまな顔を見せてくれた。

植物園にて。将棋世界同じ号より、撮影は弦巻勝さん。

 午後、マレーシア料理を賞味したあと、セントーサ島へ。”セントーサ”とは”平和と静けさ”の意味。シンガポール海峡に浮かぶ広大なレジャーランドで、造られた美しさがシンガポールらしい。モノレールとバスで島内を一周できるようになっている。

 昆虫館では自らの腕にサソリをはわせる現地の人を見、蝋人形館ではあまりにも真に迫る人形が実は人間だったりと、驚いたり笑ったりと忙しかった二人だが、圧巻は、アンダーウォーターワールドと呼ばれる海底水族館。

 動く廊下に乗って左右と頭上を通り過ぎていく魚の群れを見るのは壮観そのもの。なかでも驚かされたのは、シーラカンスのような巨大魚が、ほとんど動かず呼吸だけしている一画に出た時。

 その不気味さと、手前の手すりに何気なく置き忘れられたハンカチの対照があまりにもおかしく、二人ともしばし笑いころげていた。

セントーサ島にて。将棋世界同じ号、撮影は弦巻勝さん。

 地上に出た頃には、雲が出、風邪も吹き出し、随分としのぎやすくなっていた。

 羽生-郷田の王位戦につぐ2度目の羽生世代のタイトル戦。その映し出す表情も少しずつ変わっていくのだろうか。

日差しよけに買った帽子は7シンガポールドル(約500円)。将棋世界同じ号、撮影は弦巻勝さん。

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「マーライオンとは、頭がライオン、体が魚という奇妙な動物で、この国の歴史を表しており、象徴にもなっている」

マーライオンは、マーメイドとライオンを合わせた造語であるという。

宇宙人が地球を大規模に襲ってくるような映画で世界中の各都市が破壊されるシーンでは、シンガポールの映像では必ずと言っていいほど、マーライオンが出てくる。

頭が魚、体がライオンだったら、かなりイメージの違う像になってしまっていただろう。

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Botanic garden(植物園)へ向かう。ここでは160km²という広大な敷地が」

Wikipediaによると植物園は東京ドーム13個分の広さで、ひと回りするのに3時間以上かかるという。

1859年に開設されている。

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「午後、マレーシア料理を賞味したあと」

マレーシア料理を調べてみたが、マレー系、中国系、インド系の料理の影響を受けていて、一言では説明ができないような体系となっているようだ。

30分ほど調べて、このような結論にたどり着いた…

マレーシア料理(Wikipedia)

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「蝋人形館ではあまりにも真に迫る人形が実は人間だったりと、驚いたり笑ったりと忙しかった二人だが」

この蝋人形館は、ロンドンのマダム・タッソー館の分館。

東京タワーの蝋人形館はなくなったが、2013年、東京・台場に「マダム・タッソー東京」がオープンしている。

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「その不気味さと、手前の手すりに何気なく置き忘れられたハンカチの対照があまりにもおかしく、二人ともしばし笑いころげていた」

なぜ、そのように可笑しかったのかイメージはつかめないが、ここでは、写真の羽生善治竜王(当時)と佐藤康光七段(当時)の帽子に注目してみたい。

当時の日本円にして約500円の帽子とはいえ、二人ともなかなか面白い帽子を選択していると思う。

佐藤康光七段の帽子は、植木等さんがよくかぶっていた帽子のような雰囲気だが、ゴルフの時にも使えそうだ。

羽生善治竜王の帽子は、女性が身につけていても不思議ではないようなデザイン。

日差しよけという観点から、最も実用的な帽子を選んだのかもしれない。

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「羽生-郷田の王位戦につぐ2度目の羽生世代のタイトル戦。その映し出す表情も少しずつ変わっていくのだろうか」

この時の対局場は「ウェスティンプラザ」(現在のフェアモント・シンガポール)。

この期の竜王戦七番勝負では佐藤康光竜王の誕生となり、羽生五冠は四冠となる。

しかし、羽生四冠は1994年の名人戦で名人位を獲得して五冠に戻し、七大タイトルのうちの6つを羽生世代で占めることとなる。