郷田真隆六段(当時)「お客さんの温かい拍手が嬉しい」

将棋世界1996年2月号、JT将棋日本シリーズ’95決勝戦〔米長邦雄九段-郷田真隆六段〕「郷田、無敵の3連覇」より。

 トッププロによる全国各地での公開対局のトーナメントが、ファンにとって魅力的なJT将棋日本シリーズ。第16回となる今回は、12月3日に北海道厚生年金会館で行われた。

 決勝戦の組み合わせは昨年と同じく郷田真隆六段と米長邦雄九段。

 初出場以来負けなしで連続優勝した郷田は、今回勝てばシリージ史上初の3年連続優勝。

 一方、米長は昨年の雪辱戦である本局に勝てば、最多優勝記録単独トップの4回となる。お互いに記録が懸った一番としても好勝負が期待された。

 当日、会場には昨年の札幌大会を上回る2,000人ものファンが詰めかけ、関係者一同大喜び。

 これ位の女流プロと地元アマ強豪のお好み対局、清水市代女流名人と渡辺俊雄さんとの一戦(渡辺さん勝ち)で幕を開けたイベントは、続いてお待ちかねの郷田-米長戦。

将棋世界同じ号より、撮影は中野英伴さん。

将棋世界同じ号より、撮影は中野英伴さん。

 持ち時間10分、切れたら30秒と早指しの対局は、先手の米長がひねり飛車を採用。お互い淀みなく指し手が進んだが、持久戦を見越して端の位を取った郷田に対し、そうはさせじと米長が仕掛けを敢行。

 米長は郷田陣へ襲いかかったが、郷田は的確な受けで応対。米長の攻めはしだいに切れ模様になっていき形勢は郷田が勝勢となった。その後、寄せを少しもたついたものの、手堅く米長玉を寄せて、郷田が146手で快勝。

 敗れた米長は、終局後のインタビューでは開口一番「うーん、負けた」。明快な一言が米長らしく、会場もドッと沸いていた。

 史上初の3連覇を達成した郷田だが、「お客さんの温かい拍手が嬉しい」と記録よりも公開対局でベストを尽くした姿を見てもらえた事が嬉しそうだった。

将棋世界同じ号より、撮影は中野英伴さん。

* * * * *

郷田真隆六段(当時)のJT将棋日本シリーズ3連覇は、現在に至るまで破られていない単独トップの記録。

郷田六段が最初にJT杯に出場したのは王位を獲得した翌期(1993年)から。

1993年に王位を失冠し、普通なら1994年はJT杯に出場資格はないのだが、前年にJT杯優勝のため五段でありながら1994年JT杯に出場。そこでも優勝を果たし、さらに1995年にも優勝。

いかに大変な記録であるかがわかる。

* * * * *

「史上初の3連覇を達成した郷田だが、『お客さんの温かい拍手が嬉しい』と記録よりも公開対局でベストを尽くした姿を見てもらえた事が嬉しそうだった」

これも、郷田真隆九段らしいところ。

* * * * *

JT杯は41回開催されており、優勝回数ランキングは次の通り。

  1. 6回 谷川浩司九段
  2. 5回 羽生善治九段
  3. 3回 渡辺明名人、米長邦雄永世棋聖、郷田真隆九段

準優勝は、

  1. 5回 羽生善治九段、谷川浩司九段
  2. 3回 深浦康市九段

JT杯は、羽生善治九段と谷川浩司九段の活躍が大きかったことが示されている。

意外なことに、羽生-谷川戦の決勝は一度もなかった。。

そういうわけなので、41回のJT杯の中で、羽生九段または谷川九段が決勝戦に登場したのは21回。二人で5割以上の決勝戦出場率というのも、すごい。