近代将棋1996年6月号、池崎和記さんの「福島村日記」より。
某月某日
東京・中目黒のQ.E.D CLUBで、羽生さんの結婚披露宴。スピーチはなし、料理はバイキング形式、歓談の場は中庭という、日本ではあまり見ないしゃれたパーティーだった。
羽生さんはタキシード、畠田理恵さんはウェディングドレス。理恵さんがとてもきれいなので、私は厚かましくも二人の間に割り込んで鈴木宏彦さんに写真を撮ってもらった。ミーハーである。
周りを見渡すと森下八段が美女を連れ歩いている。そばに行って「恋人ですか」と聞くと「違いますよ、畠田さんの知り合いの方ですよ」という答え。案内役を頼まれたので、引き受けた、ということらしい。
披露宴が終わってから村山八段と二人で神田の古本屋街へ。目当てのミステリー専門店が定休日だったので、他の古本屋を2時間ハシゴ。でも結局、私たちは一冊も買わなかった。それはいいが、別れ際に一緒に書泉に入り、揃って新刊を買ったのだから、おかしい。アホだ。
古本屋は一人で行くに限る。きっと村山さんもそう思ったのではないか。
某月某日
名古屋の国際ホテルで「杉本昌隆新五段を励ます会」。地元ファン、棋士、マスコミ関係者など170人。
正直いって、これだけたくさんの人が集まるとは予想していなかった。これはつまり、板谷一門の棋士たちの活躍と中京棋界の発展を願っている人が、それだけいる、ということだ。
杉本さんは棋士になって6年目。まだ若いけれど、そろそろ大舞台に出て来てもらいたい。板谷四郎先生が第1期九段戦(竜王戦のルーツ)で大山十五世名人と優勝を争ったのは昭和25年だ。以来、板谷一門からタイトル戦に出てきた棋士がいないのは寂しいではないか。
設営の手伝いをしていた中田章道六段の奥さんに「お元気ですか」と声をかけられる。中田夫人と会うと私はいつも数年前のバンコクでの竜王戦観戦ツアーを思い出す。前夜祭のとき、彼女(章道さんは日本で留守番)は和服を着ていて、それがとてもよく似合っていた。
(中略)
章道さんに二次会に誘われる。新幹線の最終時刻まで飲んで、帰りは浦野さん、本間さんと一緒。このところ週一ペースでパーティーに出ている。昇段祝賀会は大阪でもあるし、また塚田さんの結婚式も控えている。飲み過ぎに注意しよう。
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将棋世界1996年6月号、大崎善生さんの編集部日記より。
3月30日(土)
杉本五段の昇段祝賀会に出席のため名古屋へ。一次会、二次会と出席後、三次会へ突入。普及部の滝理事、大野木さん、大阪の森理事、村山八段らと思わぬ大宴会になってしまった。朝5時店を出ると外は明るい。
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杉本昌隆新五段(当時)を励ます会。
「板谷一門の棋士たちの活躍と中京棋界の発展を願っている人が、それだけいる、ということだ」
このような思いの積み重ねが、藤井聡太二冠の誕生にまで結びついているのだと思う。
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「古本屋は一人で行くに限る。きっと村山さんもそう思ったのではないか」
個人的な話になるが、接待を伴う飲食店について、全く同じことを思ったことがある。
その逆が居酒屋で、どうしても一人で行こうとは思わない。
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「章道さんに二次会に誘われる」
「一次会、二次会と出席後、三次会へ突入」
池崎さんの書いている二次会と大崎さんの書いている二次会は、同じ二次会(主催者二次会本隊)だったと思われる。
最終列車で帰るか、始発列車で帰るかの分かれ道。
東京に住んでいた村山聖八段(当時)と兵庫県に住んでいる師匠の森信雄六段(当時)が、名古屋で一緒に朝まで飲んでいるのが嬉しい。