仮面の男

先週の週刊新潮の中原誠十六世名人の連載「気になる一手」は、1978年の名人戦の話。

前夜祭まで長髪だった挑戦者の森けい二八段(当時)が第1局の朝、頭をスキンヘッドにして現われたという「剃髪の挑戦」。

この第1局は短手数で森八段の圧勝。

当時の記録によると、対局場は「仙台ホテル」。観戦記は山口瞳。

剃髪の森八段が現われたとき、全員がビックリして場が凍りついたという。

立会人の花村元司九段の

「私に断りなく坊主頭にしてもらっては困るな」

の一言により、場は和んだ。

しかし、中原十六世名人は、かなり気になっていたようだ。

『これに驚いて私が負けたと言われたのだが、確かに異様な雰囲気というべきか、妖気漂う不気味さがあった。

この頃、横溝正史の「犬神家の一族」が映画化され、たまたま私もみていた。その中に仮面の男が登場するが、森八段の頭の形がそっくりだったことも不気味さを助長させた』

ここでいう「仮面の男」とは、作中の犬神佐清(いぬがみ すけきよ)のことだ。戦争で顔に火傷を負い、人面マスクを被った姿の佐清。たしかに1976年に映画が公開された時の人面マスクは、非常にインパクトが強かった。

 

中原十六世名人の文章は、ご本人は全然意識していないと思うが、普通の文の中に独特のユーモアが含まれている。

『(第4局。それまで1勝2敗)開幕から一ヶ月がたち、森八段の頭もスポーツ刈りといった感じになっている。無気味さはもうない。七番勝負は長いなと感じるときである』

この後、激戦が続くが、中原十六世名人の防衛。

『もし剃髪をずっと続けられたら正直いって自信はなかった。盤外の気になる一手であった』

これからも「気になる一手」が見逃せない。