根性の入った歩

昨日に続き、深浦康市王位の話。

深浦七段(当時)の、誰にも真似のできないような辛抱の将棋。

鈴木大介七段(当時)の自戦記、2002年の竜王戦2組2回戦、鈴木大介七段(先)-深浦康市七段戦より抜粋(太字部分)。

この自戦記は、2003年将棋ペンクラブ大賞観戦記部門佳作(現在の優秀賞)を受賞している。

鈴木七段が、深浦七段の個性を鮮やかに表現している。

(図面は自戦記掲載の図面とは異なります)

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▲6四歩に対する次の一手には唖然とした。△6二歩――。当然△6四同銀の一手と想定しており、以下▲同角△同飛▲6五歩△同飛▲6六歩でやや良しと思っていたのだが……。

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△6二歩はいわゆる言葉は悪いが「のたれ死に」になる形で、並のプロには指せない形だ。

(ここで鈴木七段は▲4五歩。△同歩なら▲6六角で王手飛車取り。そして深浦七段は12分考えて△7三歩)

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続いての△7三歩もそうで、ひたすら耐えるだけの歩である。これぞ辛抱深浦流で、この歩の裏には”と”ではなく”ふかうら”と書かれていたのではないだろうか。

それほどまでに根性の入った歩たちである。善悪は別として将棋は互いの個性と個性がぶつかり合うからこそ面白いのだと思う。

夜戦に入り、私が逃げ切るか、深浦ワールドに引き込まれるかの勝負になった。

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この後、終盤にも深浦王位のものすごい粘りが出るが、123手までで鈴木七段の勝ち。

鈴木大介八段は、将棋ペンクラブ会報の受賞のことばで、次のように書いている。

自分なりに一番書くのに困ったのは4譜であり、この譜では、深浦七段が私には考えもつかない(たぶん皆様も同じだと思う)△6二歩~△7三歩と、普通は辛抱できないところを小考の末、歯を食いしばって辛抱したところで、当初は、私の好きな類の手ではないので「すごい辛抱」くらいにしておいたのですが、考えてみると、この私にとっては評価しがたいこの2手ほど、棋士深浦を表現した手はないのではないだろうかと思い、最終的には”ふかうら”の歩ということで出すこととなりました。