昔の将棋年鑑のトピックス最終回。
1996年の棋士名鑑から、「おすすめの食べ物」。
(タイトル・段位は当時のもの)
—–
羽生名人・竜王 → とろろそば
これは七冠王の頃の回答。
一昨日の竜王戦挑戦者決定戦の昼食でも羽生名人が「山かけそば」を注文していたように、羽生名人が千駄ヶ谷や福島で”とろろ系麺類”を頼む頻度が比較的高い。
なぜ「とろろそば」のような微妙な食べ物がお薦めなのかわからなかったので、私が一度も食べたことがない「とろろ」について調べてみた。
ヤマイモにはデンプンの分解酵素であるアミラーゼが豊富に含まれており、このアミラーゼはデンプンを糖質に分解してくれる。
なおかつ、すり鉢ですったキメ細かいとろろは、細胞が破壊されて細胞の中に閉じ込められていたアミラーゼが、外に出やすくなっている。
棋士が対局中に食べるおやつは、糖分の摂取により脳の活性化に結びついていると言われるが、とろろそばを食べると昼食をとりながら糖質の摂取をしていることになる。
たしかに理にかなった食事だ。
羽生名人は、このことを体で会得したのかもしれない。
ただしアミラーゼは60度以上の熱を加えるとその働きが失われるので、とろろそば(温)ではなくとろろそば(冷)のほうが効果的だ。
—–
加藤一二三九段 → 特にありません
特になければ回答を飛ばすところを、加藤一二三九段は、あえて「特にありません」と回答している。
加藤一二三九段は他の質問に全て回答しているわけではないのに、この質問だけ「特にありません」。
うな重でも握り寿司でも天ぷらでもない何かを書きたかったのだろうが、あまりにもお薦めが多すぎて結局はこのような回答になったのではないかと、私はにらんでいる。
—–
田中寅彦九段 → ホープ軒のラーメン
千駄ヶ谷のホープ軒には、田中寅彦九段の色紙やマラソンの瀬古選手の色紙が貼られている。
この当時、田中寅彦九段の自宅が千駄ヶ谷にあったので、結構ホープ軒に通っていたのだと思う。
田中寅彦九段の色紙だけでも3枚以上あったと思う。
田中寅彦九段もサービス精神旺盛だ。
—–
森内俊之八段 → ムール貝
ムール貝とは唐突だが、森内俊之八段はこの頃、夏休みを利用してフランスのチェスの大会に参加していた。
フランスで食べたムール貝が美味しかったので、お薦めになったものと思われる。
—–
森下卓八段 → 青汁
森下卓八段の好物といえば焼肉(→新聞記事)なのだが、お薦めは青汁。
森下卓八段はこの翌年10月に結婚をしているが、まだこの時期はフィアンセの影響があるとも思えない。
かなりストイックな飲み物とはいえ、森下八段に薦められると、飲んでもいいかなと思ってしまう。
—–
佐藤康光八段 → 花背の釜揚げうどん
「花背」は三軒茶屋にあった京うどんの店で、現在は閉店してしまっている。
店を続けるということは本当に大変なことだ。
—–
郷田真隆六段 → らっきょう
「数多くある食べ物の中から、なぜ、らっきょうなのか」、と突っ込みを入れたくなるような微妙なお薦めだ。
とは言いながら、私は居酒屋へ行った時は、らっきょうをいつも頼んでいるような気がする。
カレーと一緒に食べたいとは思わないが、酒のつまみには悪くないのだ。
らっきょうはそんなに美味しいものではないし、世の中かららっきょうが無くなってもそれほど大きな影響は出ないと思う。
しかし、らっきょうには捨て難い魅力がある。
郷田真隆六段も、そのようならっきょうに魅せられてしまったのか。
—–
豊川孝弘五段 → 高円寺のかぶ山の定食
「かぶ山」は高円寺の和定食の店。お婆さんが一人で切り盛りしており、23:00まで営業をしている。
メニューは、
刺身定食 980円、肉豆腐定食 980円、若鳥唐揚定食 980円、ヒレカツ定食 980円、カキフライ定食 980円、焼魚定食 880円、煮魚定食 880円、豚生姜焼定食 880円など。
→料理の写真
「高円寺」「お婆さんが一人でやっている」「和定食店」「豊川孝弘五段」、このキーワードの組合せは、結構情緒がある。
—–
石橋幸緒女流初段 → なまこ
この頃、石橋幸緒女流初段は15歳。
酒飲みになる前にして、なまこがお薦めとは凄い。
石橋幸緒女流初段は、この数年後の近代将棋のインタビューでも「このわた」が好物と答えており、石橋女流初段のなまこに対するこだわりが強固であることがわかる。
私は酒飲みだが、なまこは食べたことがない。
もし、なまこが地上を這っていたら、私は気絶してしまうだろう。