団鬼六さんを偲ぶ。
将棋ペンクラブ会報2009年春号、団鬼六さんと木村晋介弁護士(将棋ペンクラブ会長)の新春対談より。
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木村 団さんが書かれた「我、老いてなお快楽を求めん」を拝見しましたが、面白くて面白くて、吹きだしてしまいましたよ。
団 おお、それは有り難うございます。
木村 で、あの本の中に鼻っ柱の強い女性弁護士が出てきますよね。夜になるとマゾになっていろいろなことをするという。あの話も面白くて、ついつい弁護士のくせで、その女性弁護士が誰だろうと思って調査したんですよ。しかし、あらゆる方面から調べても出てこない。そこで最後に行き着いたのが花紅舎(団鬼六作家活動40周年を期して設立。かつて率いていた「鬼プロダクション」の復活再興の為、出版/映像/その他団鬼六作品の商品化を主たる目的とする。命名者は団鬼六本人であるらしい)だったんですよ。すごいでしょう、弁護士の調査力は。
団 すごいね。
木村 その会社の謄本を調べてみると、ある女性の監査役がいまして、この人があやしいかなと思いました。ところがこの女性の名前、弁護士会の名簿にはないんですよ。
団 マゾ女性はその監査役じゃない。話に出てくる女性は税理士なんですよ。
木村 シチュエーションを少し変えたけど、やっぱり本当の話なんですね。アレは面白い。
団 本人が分かるような、そのままは書きません。ところで、 これエッセイとして書けるようなおもしろい話なんだけど、ひとつ弁護士の木村さんにお聞きしたいことがある。
(中略)
木村 本にあった、大田学さんとの飛車落ちの対局が抱腹絶倒ですね。前の晩、銀座のクラブで、今まで素っ気なかった団さんお気に入りのホステスから、今夜あなたに身をまかすというような電話がかかってくる。それが引っかかって落ち着かない。そこに大田さんが来る。団さんは気が落ち着かないから何回も詰みを見落とし負けてしまう。もう一局指しましょうということになり、団さんが優勢になった局面で、そのホステスから電話がかかってくる。今まで何度口説いても断り続けてきた女性が「今夜はお時間ないの?」。
今、大事な仕事をしているからもう少し待ってくれと言って電話は切ったものの、そうなると余計気になってしまう。心が乱れているから、その優勢な一局も落とし、また何局も指すのだけれども、その度に女性から電話がかかってきて負け続ける。最後は「私よりも将棋が大事なのね」と言われて、ライバル関係にあった男にその女性をとられてしまう。
団 あのときは三日三晩指しましたよ。ボロボロに負けました。
木村 勝つところが何度もあったのに何度も負ける。最後に大田さんが「将棋は詰ませるところで詰まさんと、なかなか勝てませんな」。そうしたら団さんが「ああ、あそこで女を詰め損なった」。見事にオチがついている。
団 よく覚えているね、木村さん。
木村 僕がこの話がおもしろいとカミさんに言うと、カミさんは大笑いして「面白すぎるわよ、ホントかなあ」って言うんですよ。
団 少しは面白くしているけど、本当の話ですよ。大田さんはお金を受け取らなかったね。
木村 もう一つ面白いのは、暴力団の親分と将棋を指した時の話ですね。
団 大阪の河内の親分ね。
木村 中盤の山場のとき、親分が煙草を手に持つ。子分は慌ててやってきてタバコに火をつける。団さんも煙草を吸おうとしたら子分が猛スピードでやってきて「客人どうぞ」と火をつける。
団 ああいうのは、せわしくて落ち着かなかったな。
木村 親分が駒台に手を伸ばそうとすると、「親分、取るもんは何でっか」。「銀や」。子分が絹のハンカチに駒を乗せて親分に渡す。「何や、金やないか、このドアホ。銀や」。子分は駒台を見ても銀がないので困り果てる。ふと団さんの駒台を見ると銀がある。「すみまへん、この金とその銀を交換してくれまへんか」。
団 あの時は、参ったな。
木村 それを見て親分が、「イテまうど!」と子分に怒鳴る。この話もうちのカミさんが、ひっくりかえって笑って「そんな面白過ぎる話、ホントにおこるかなァ」って疑るんですよ(笑い)。
団 河内の場合は、そういうのあるんですよ。信じられんような、アホなことが。
(中略)
木村 団先生は古くからの将棋ファンですが、大山・升田時代と今では、だいぶ雰囲気が違いますか。
団 違いますね。僕は大山・升田時代しか知りません。最近の棋士のことはあまり知りません。僕にとっては大山・升田時代が一番良かったですね。
横浜に居た頃、大山さんと一緒に鰻屋へ行くのですが、店の主人から、大山さんの好きな食べ物を聞いてくれと頼まれるんです。それで大山さんに一番好きなものを聞いてみると、「僕ですか。食べるものならアンパンですよ」と言う。たこ焼きやたい焼きも好きでした。そういうところが大山さんの大したところだと思います。
木村 大山さんの若いとき、大阪での修行時代に好きだった食べ物なんでしょうね。
団 奨励会の頃の行方(八段)や豊川(七段)とかを、よくその鰻屋へ連れて行ってました。それなのに、この間なんか、行方が大きな顔をして、「ここは僕が勘定持ちますから」というので、アホかと言ってやりました。
木村 うまいうまいと、若い人がガツガツ食べているのを見るのがお好きなんですね。
団 そうなんですね。
(中略)
団 僕は作家の才能もないと思っていたし、本も井原西鶴と近松門左衛門しか読んだことがなかったし。作家の修行はしていません。でも、作家以外の商売は全部失敗しましたね。将棋雑誌でも株でも。原稿書くと儲かるのですが、それを株に使ってしまう。作家だけをやっていればいいのですが、人生楽しまなければなりませんから。
木村 団さんにとっては、人生というものは楽しんで狂えばいいわけなんですね。
団 金が入ると悪銭が入ったように思えて、それで商品相場や株で勝負しようとするんです。それで駄目になる。
木村 だから将棋も強くなるんですね。僕は弁護士になろうと思って弁護士になり、弁護士しかやっていないから、他で損をするという経験をしていません。
団 2月4日の週刊朝日に林真理子さんとの対談が出ます。「私、皆からMと言われますが、SとM、どちらが美人が多いですか」と聞くので「Mはブスや」と言ったら大声で笑っていました。その時も言ったのですが、書くと儲かる、でも他は全部失敗する、何でやろうと思う。
(以下略)
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この対談は、団鬼六さんの地元、浜田山の団さん行きつけの寿司屋で行われた。
途中から飲みながらの対談となったが、店に来ていたお客さんが、「突然で失礼しますが、団先生でいらっしゃいますか。僕は団先生の大ファンなんです。お会いできてとても感激しました」とあいさつに来るような場面もあった。
二次会は、やはり団さんが行きつけのカラオケ店。
団さん、木村弁護士、湯川博士さん・恵子さん、私、の面子。
団さんはジャズやシャンソンなどを歌っていたような記憶がある。
カウンターに一人で来ている若い女性が座っていた。
客席は私たちとその女性だけ。一緒に飲もうということで湯川博士さんが彼女を席に連れてきた。
かなりな美人だった。
「わたし、”花と蛇”を読んだことがあります。とても感動しました」
団さんが更にご機嫌になった。
二人で何曲かデュエットしていた。
…今となっては懐かしい思い出だ。
団鬼六さんは、今頃、大山康晴、升田幸三、七條兼三、高木達夫、大田学、小池重明、石立鉄男といった人たちと酒を酌み交わしているのだろう。
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