阿部隆八段と畠山鎮七段の本音トーク

近代将棋2006年8月号、池崎和記さんの「関西つれづれ日記」より。

5月某日

 大阪駅前のホテルグランヴィア大阪で、阿部隆八段のA級昇級と畠山鎮七段のB級1組昇級を祝う会。

 200人を超す参加者があり、大盛況だった。うち棋士は田中魁秀八段(阿部さんの師匠)、森安正幸六段(畠山さんの師匠)、谷川浩司九段ら25人。

(中略)

 できるだけたくさんのファンと歓談したいという主役二人の意向で、席上対局などのアトラクションはなし。代わりに御両人による「本音トークショー:があった。これがメインイベント。

 こんなやりとりがあった。

阿部「鎮君の将棋は内容がすごく良かったね。7割くらい勝ったし。B2以上で7割勝つのは大変ですよ。僕は去年の成績が16勝14敗で、5割ちょっとだった」

畠山「皆さん、覚えておいて下さい。私、阿部さんにホメられたのは初めてですよ」

阿部「・・・・・・」(そんなことはないよ、という顔)

畠山「阿部さんに対局でボロ負けしたときだけホメられるんです。感想戦で私が”ここがおかしかったですかね”と聞くと、”いや、なるほどと思いましたよ”とか。私が阿部さんに勝ったときは”お前、何だ、この手は”とか、”こんな寄せはないぞ、おれまで間違ったぞ”とか言われます。20年怒られてますから」

阿部(苦笑しながら)「鎮君の将棋ですごいと思うのは、相手にやりたいようにやらせるところ。初手▲7六歩に後手番で△8四歩とやるんですね。いま後手番で△8四歩とやれる棋士は少ない。相手(先手)の言いなりになるから。でも鎮君はそれで勝ってる。王道なんですよ。これはなかなかできないことです」

畠山「そう言われるとうれしい。僕は”あんたは一発狙いや”と言われましたから」

阿部「それは昔の話やろ。20年くらい前やろ」

畠山「阿部さんに聞きたいことがあります。全日本プロで優勝したとき(平成6年)、振り飛車をやりましたよね。どうしてそんな作戦選択をするのか。僕、棋士なのにわからないんですよね」

阿部「相手は中田宏樹さんでしたね。もう時効だから言いますけど、中田さんの棋譜を並べたら、対振り飛車の勝率が悪いんですよ。そして矢倉はものすごく強い。だから、がっぷり四つでやったら負けると思った」

畠山「ああ・・・」

阿部「大きな舞台に立ってるんで、やはり勝たなくちゃいけない。それで四間飛車という戦法を採用したんですよ。3局やりましたね」

(以下略)

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今日のNHK杯将棋トーナメントは、谷川浩司九段-畠山鎮七段戦。

本音トークは、やはり関西弁同士が面白さ百倍だと思う。