渡辺竜王と藤井九段が驚いた、驚異の羽生マジック

渡辺竜王と藤井九段が驚いた、燻し銀の羽生マジック。

将棋世界2005年11月号、「話題の将棋、本音で語ろう！」より。

文・構成は青島たつひこさん（鈴木宏彦さん）で、ホストが渡辺明竜王、ゲストが藤井猛九段。

藤井　１図は控室で先手を持っていた棋士全員がさじを投げた局面。先手はせっかく作った馬を消されちゃったし、△６六歩や△７五歩のたたきは残っているし、４七の銀は遊んでいるし。いいところが１つもないんだ。ところが、ここからの羽生さんの指し手がすごかった。まさに本領発揮。

渡辺　久々に羽生マジックを見ましたね。この苦しそうな局面が、すぐ先手必勝になるんだから。ここからの組み合わせは誰にも読めません。控室では羽生さんの1手1手に「へー」とか、「わー」とか声が上っていた。

藤井　まず▲２四歩△同歩の突き捨てを入れてから▲７七角と打つ。後手は△３三角と受けたほうがよかったと思うけど、2筋の突き捨てのあとだと△３三金と立ちたくなるんですよ。玉頭が広くなったように見えるから。それから▲６八飛と回ったのがうまい。何かのときの▲６一飛成を見せて、前の△３三金は悪手だったんじゃないのと、プレッシャーをかけているわけだ。

渡辺　△６二飛はこう指したくなるところだけど、そこで一旦７七に打った角を６六に出た手がうまい。次に▲７七金寄から▲４四角と切る手を見せられて、後手は急に焦らされることになった。▲６八飛も、▲６六角も誰も気付きませんでしたね。

（３図のあと、△４三金引▲７七金寄）

藤井　後手は突然嫌な筋だらけになった。▲３三角成を狙った▲７七金寄に誘われるように△６五歩と打った手が敗着。

藤井　▲８四角と出られてと金を作られては、もうダメです。△６五歩で△４四歩▲５五歩△７五歩▲同角△６八飛成▲同金△５五銀▲８二飛△３二金なら後手もまだ戦えた。でも、残り２分でこれだけ振り回されたらとても対応できないね。この手順には恐れ入りました。同時進行で見てたからそのすごさが分かったけど、あとで棋譜を見ただけじゃ分からないな。

渡辺　▲２四歩、▲７七角、▲６八飛、▲６六角の組み合わせは羽生さんにしか指せない手なんですよ。佐藤さんも何が起きたのか分からず、びっくりしたでしょうね。

藤井　勝負に徹した順だね。羽生さんと指しているとありますよ。難しそうな局面でわけの分からない手を指されて一気に差をつけられることが。手として正しいかどうかは別にして、そういう手についていけない自分にがっかりする。

渡辺　これまでにも羽生さんの好手はいっぱいあるけど、多少の好手が出てもいまさら誰も驚かない。でも、これは本当に驚いた。