タイトル戦での忘れ物

将棋世界2000年5月号、塚田泰明八段(当時)の棋王戦第3局観戦記「受けの凄み」より。

 対局開始時間午前9時の6分程前に、挑戦者の森内が和服姿で対局場へ入室。

 特に決まりがある訳ではないが、タイトル戦では挑戦者が先に入室し、保持者が後から、ということが多いようだ。

 そして開始3分前ぐらいに羽生が入ってきたのだが、何かが違う。スーツを着ているのだ。

 その表情からも慌てぶりが見てとれたのだが、ともかく午前9時、対局は始まった。

 後で聞いたところ「足袋(たび)」を持ってき忘れたとのこと。

 おそらく、和服の着付けに慣れている羽生は時間ギリギリに着替えを始めたのだろう。

 ところが、足袋のない事に気が付いた。このホテルは、結婚式も行われるので、貸衣装で、というのを考えたはずだが、何せ時間がない。まさか遅刻する訳にはいかない。

 それで、やむを得ず和服はあきらめ、スーツに着替えて対局室へ向かった。

 以上は私の推測だが、こんな感じだったと思う。

(中略)

 足袋の方はすぐに手配され、昼食休憩再開の午後1時には、いつも通りの和服での対局となった。

(以下略)

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朝は慌しかったものの、この対局は、羽生棋王が勝っている。

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私はあまり忘れ物はしないほうだが、一度だけ、似たような経験がある。

今から10年前の7月、中国へ出張に行った時のことだった。

出発の前の晩に必要な荷物を詰め込んだ。

きっと、他のことを考えながら荷造りをしていたのだろう。

出発の朝、旅行鞄の中身を最終チェックしていると、下着を入れていないことに気が付いた。

気が付いて良かった、とホッとしたのがいけなかった。

北京に到着したのはその日の午後(日曜日)。

夜に南京へ向かい、南京のホテルへ宿泊。

明けて月曜日。朝、背広を着ようとしていると、ネクタイがないことに気が付いた。

ホテルで買おうと思ったが、ホテル内の店が開くのは10:00から。アポイントは9:30。

必死に考えたが名案が浮かばない。

たまたま、この朝、南京市内にある「中山陵」(孫文の墓)を見に行こうということになっており、現地に詳しい人に聞くと、「中山陵」の参道(?)には店が出ていて、ネクタイはそこで買えるだろうという。

「中山陵」は392段の階段を登ったところにあるのだが、階段の麓に店が何軒もあって、その中の土産物店のような衣料品店にネクタイは置いてあった。日本語は通じないので、一緒に行った中国の人が店主に話をしてくれた。

ネクタイ1本が100円くらいだったと思う。芯が入っていないヘナヘナなネクタイだったが、どうにか助かった。

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辛亥革命を起こした孫文だが、今年が辛亥革命100周年。

辛亥革命が最初に勃発したのは、100年前の昨日、1911年10月10日のことだった。