「あれはね、ここ三年間、私の見た将棋のなかでいちばんいい手だよ」と語られた一手

普通では考えられない絶妙手。

将棋世界1997年8月号、河口俊彦七段の「新・対局日誌」より。

 あるとき米長九段と電話で話していると、突然「中田(功)の▲5四歩という手を知ってるかね」と来た。不勉強な私が知っているはずがない。すると「あれはね、ここ三年間、私の見た将棋のなかでいちばんいい手だよ」と言った。

 名人・Aクラスの将棋ならともかく、C級1組まで目を通しているとは偉いもんだ。

 図がその局面。△5一香の竜取りに対し、▲5四歩とつないだのである。

中田功絶妙手1

 なるほどこれは好さそうな手だ。第一、こういった発想が浮かばない。竜取りに香を打たれれば、竜が逃げるか、▲3三竜と切り、△同桂なら、▲3四歩△同銀▲3五歩。△同金なら、▲3一銀△同玉▲6四角、とかの順を考えてしまう。

 それ等に一顧もあたえず▲5四歩(三分で指された)とは、中田功君の才能を示すものである。

 図から△5三香▲同歩成と5三にと金を作り、このと金が、竜以上の働きをし、先手が完璧に勝った。

 こういう手の解説をしているときりがないのでやめるが、プロが感動する手とは、こういった感じの手なのである。

(以下略)

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中田功七段は大山康晴十五世名人門下で三間飛車党。

三間飛車の元祖といえば、大山康晴十五世名人の兄弟子で「振飛車名人」の故・大野源一九段だが、中田功七段の三間飛車は、大野九段の三間飛車とは構造が異なる。

大野九段の振飛車全般に言えることだが、大野九段の将棋の根本は、飛車を成り込むか飛車交換をして「飛車を捌く」ことを主眼に置いている。

中田功七段の将棋は、大駒をドラスティックにどんどん切って敵陣に食い込むことに主眼が置かれている。

大野九段も中田功七段も、傾向は異なるが、見せる将棋だ。

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将棋世界2002年10月号、野月浩貴五段(当時)の「野月浩貴の将棋散歩」より。

 注目の棋士と言えば、中田功六段をおいていないだろう。

 振り飛車といえば、四間飛車や中飛車が注目を浴びている現在、かたくななまでに三間飛車にこだわり、しかもファンタスティックな指しまわしを見せる才能豊かな棋士である。

(中略)

 華々しい大技炸裂の瞬間を、ぜひともご覧あれ。

 まずは7月30日に行われた達正光六段戦(朝日オープン)より。

中田功絶妙手2

 相穴熊の戦いとなった上図、後手からは△6六角や△3二飛が第一感として目に映る。

 しかし、中田六段はそんな平凡な手など目もくれない。実戦はじっと△5一飛。

 はっきり言って、よく意味が分からない。この忙しい時に・・・という気がするのだが、この間が中田流だ。たぶん距離を測っているのだろう。

 自分の狙い筋、即ちパンチの届く局面を作る。これが距離を測るということ。

 当然ながら自分の攻めの鋭さがどれくらいか分かっていないとできない芸当だ。

 △5一飛以下、▲3六飛△5七歩▲3三歩成△5八歩成▲4二と△5三飛▲5六飛△6六角と進んだ。

 ▲5六飛のところで▲3一飛成は△3三飛でいけない。と金の位置が違いすぎて勝負にならない。中田六段が一本取った格好だ。

中田功絶妙手3

 それから少しして上図となった。ここから中田六段は△7三銀と自陣を固めた。これは▲6五歩から▲4四角に備えた手で、先に引いておけば当たりにならず、今度は△3五飛の捌きがある。

 そこで達六段は▲1七角としたが、△7五歩▲同歩△3七飛成!▲同桂△7六歩から会心の寄せが炸裂した。飛車よりも7六に打つ歩の方が大事との判断。

 見せる(魅せる)将棋、これが中田将棋の真髄なのだろう。

中田功絶妙手4

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自軍の飛車に対する、サディスティックなまでの指し回し(マゾヒスティックというべきか)。

棋譜を見れば中田功七段とわかるような、非常に個性的な将棋だ。