将棋世界1997年8月号、河口俊彦七段の「新・対局日誌」より。
名人位を失って二日後、羽生四冠が日刊ゲンダイの勝ち抜き戦に出場している。
その途中の局面を控室のモニターテレビで見た面々は、一様に、眼を疑う、といった表情で口をつぐんだ。
ちょうど五十手目の局面、図を参考までにご覧にいれるが、この駒の配置の異様さをどう感じられるだろうか。この後十七手であっさり羽生四冠は投了してしまうのである。
傷心と披露が原因だろうとは思う。
(以下略)
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前年の3月に七冠制覇。その後の棋聖戦で三浦五段に、竜王を谷川九段に、名人を谷川竜王(谷川十七世名人誕生)に奪取されたというタイミングだった。
藤井システムがすっぽ抜けた形なのだろう。
風邪をひいている時などこの図面を見たら、悪夢にうなされそうな感じがする。
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ところで、現在の羽生二冠は、タイトル失冠直後でも全くそのようなことはなかったような安定した指し回しを見せている。
1996年当時の羽生七冠と現在の羽生二冠の間で十番勝負が行われたらどちらが勝つか、という問題があったとしたら、私は「引き分け」と答えるかもしれない。
歳を重ねただけ、若い頃持っていなかった違った要素の強みが蓄積されてきているのではないかと思うからだ。