将棋マガジン1993年12月号、鹿野圭生女流初段の「タマの目」より。
兄弟弟子
ある日棋士室で福崎八段の棋譜を並べていた。
福崎「あれ、誰の将棋か思たら・・・」
タマ「あ、見つかっちゃった」
福崎「ここで詰みがあんねんけどわかる?」
阿部六段「なんや、そんなん、桂馬打って簡単でしょう」
福崎「ホンマに簡単やの? 僕が34分考えて、やっと見つけてんで」
阿部「ほら、こうやって、(と盤面を動かす)」
福崎「こっちに逃げると?」
阿部「あれ? そうか、すいませんちょっと場所代わって下さい(と盤の正面に座る)読みきりますから」
福崎「ほらほら、一分将棋な(といってチェスクロックを押す)」
―ピッピッピッブー―
阿部「うわー、ちょっとその音はやめて下さい。わかりましたよ。勝てばいいんでしょ。勝つんやったら、簡単や。ほら、こうやって(と言って、詰めろ逃れの必至をかける) はい、これで良いんでしょ」
福崎「僕は詰ませてくれ、て言うてんで」
阿部「はいはい。ン? わかりました。なんや簡単や。こうでしょ。(と、また盤面を動かす)」
福崎「こう逃げると?」
阿部「そんなん。さっきと違うとこ逃げてるやん」
福崎「どう思う、鹿野さん? 簡単や言うとって」
阿部「ほんで、正解は?」
(回り一同大爆笑)
福崎「鹿野さんの目が輝いてるで。タマの目に書こうと思て。(と言って正解を披露する)」
阿部「なんや、簡単や!!」
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強気強気の阿部隆六段(当時)と、とぼけた味の福崎文吾八段(当時)。
この兄弟弟子二人による大盤解説会は爆笑が絶えなかったといわれるが、本当にそうだと思う。