詰将棋の鬼

超難解長編作品を得意とし、煙詰[父帰る][三十六人斬り]など、空前絶後の名作を残している詰将棋作家の駒場和男さん。

駒場和男さんは1934年生まれ、「詰将棋の鬼」と呼ばれる伝説の詰将棋作家だ。

将棋界の大旦那であり詰将棋作家だった故・七條兼三氏が、次のように語っているほど。

「駒場君のカミさんは美人でねぇ。ミス東京なんとかと言ったな。それがね、駒場君が看寿を超すような煙詰を、ろくに仕事もしないで何年もかかって完成したとき、カミさんも煙のように消えちまったんだ。煙詰のカミさんですよ。あれは…」

湯川恵子さんは七條さんからこの話を聞いて、「煙詰め できたときには 妻も消え」という句を作っている。

実情は定かではないが、一時期の駒場さんは、家庭などかえりみず、まるで鬼人のごとき形相で詰将棋を創っていたと言われている。

今日は、詰将棋に興味のない方でも面白く読める、駒場さんが書いた連載記事を。

近代将棋1991年2月号、駒場和男さんの「詰将棋トライアスロン 亨保に生きる」より。

 煙詰めについても書かなければいけないと思うし、長手数詰についても書きたい。馬鋸や龍鋸や遠打などについても書いてみたい。書きたいことはいっぱいあるけれど、ここらでお茶にしませんか。

 一息入れたくなった。リフレッシュしたわけです。

 しかし何ですね。詰将棋ってのは人の心を惑わせますね。そりゃそうだ。銀子はいるし、桂子もいる。香子もいる。あゆみだって捨てたもんじゃない・

 銀子は一流クラブのナンバーワンホステスですよ。桂子は良妻賢母の感じ、香子は高校教師のイメージですね。

 龍子ってのもいいねえ。お龍のほうが感じがいいかな。そういえば、美女の場合は”おりょう”と呼ぶんだったねえ。一度ホレられてみたいよ。

 好きな駒ということになると、森田正司氏は「銀杏」で、門脇芳雄氏は「芳桂」です。”ギンナン”と読む人もいれば”ホーケー”と勘違いする人もいる。ハハハ。それはともかく、詰将棋作家は銀とか桂とかがお好きらしい。

 では宗看は何が好きだったのか。看寿は何が好きだったのか。ちなみに、私は博愛主義というか、特に好きな駒もなければ嫌いな駒もない。どの駒も平均的に好きである。ということは、それだけ没個性的であるわけですね。

 個性的ということでは、何といっても宗看ですよ。宗看の作品は難解だけれど、難局か解いているうちに宗看の強烈な個性が作意を暗示していることに気付き、それからはそれ程苦労しなくても解けるようになる。

 「無双」と「図巧」をあらためて見る。どの駒が好きだったかという目で見る。1番から100番まで何度も見る。刑事コロンボの執拗さで見る。すると見えてくるんだよねえ。犯罪捜査も現場百回というけれど、まったくその通り、まずわかったのは宗看と看寿の作風の違いであった。

 いやいや、豪放と繊細といったことではない。作り方に関することである。微妙な違いなので言い回しが難しいが、宗看は直線的、看寿は曲線的といったらいいか。宗看は縦線または横線に強く、看寿は斜線に強いといったらいいか。

 作品の比較はナンセンスである。「無双」は先発、「図巧」は後発である。後発のほうがよくて当たり前だのクラッカーである(古いねえ)。

 そんなことより、素晴らしいのは宗看が「百番で一局」の作り方をしていたことである。”全格玉配置”が何よりの証拠です。これは宗看がいかに緻密な頭脳の持ち主かということじゃないですか。

 看寿はこれに倣った。看寿にとって宗看は兄であり、父であり、そして神であったかもしれない。ライバル意識はなかった。15歳のとき「無双」を見せられて以来、宗看に追いつけ追い越せは看寿の命題となった。そして遂に追い越したといっていいだろう。

 宗看と看寿の作風の微妙な違いは好みの駒によるのではないか。ふとそう思った。

 A図は無双30番である。宗看の代表作といわれている。

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 テーマは「左右馬鋸」。宗看は「歩頭馬鋸」(これも代表作)も作っている。すると馬、つまり角が好きなのだろうか。

 B図は図巧1番である。看寿の代表作といわれている。

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 テーマは「飛打・飛合」。看寿は「飛鋸」(これも代表作)も作っている。すると飛が好きなのだろうか。

 A図は、左下隅で引いた馬が消え、右下隅で鋸を引いた馬が消える。テーマは確かに左右馬鋸ではあるけれど、その馬が主役という気はしない。むしろ龍ではないのか。龍が主役ではないのか。龍の八面六臂の活躍にこそ宗看の思い入れがあるような気がしてならない。

 C図は無双30番の詰上がり図である。

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 左右対称形もさることながら、龍がしっかり玉を摑んで放さばこそ。それは恰も宗看の化身が龍であるかの如く、宗看は飛(龍)が好きだったのだと思わざるをえぬ象徴的なシーンではないか。

 B図は、遠飛と飛合の繰り返しで1六の角を5六まで送り、9二歩の打歩詰を同角と取らせて打開しようというものである。飛打・飛合がテーマであるのは論をまたないが、その飛が主役のような気はしない。角ではないのか。1六の角が主役のような気がする。その露払いが3六龍ではないのかな。

 D図は図巧1番の詰上がり図である。

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 1六角が攻防所を変えて7四に存在している。そしてしっかり玉を押さえている。役者やのうといった感じ。その千両役者振りが看寿とダブる。看寿は角が好きだったのではないか。

 宗看は飛が好き、看寿は角が好き、と一応こじつけてみたけど、どんなものか。

 牽強付会の趣なきにしも非ずかねえ。しかし「無双」と「図巧」を繙いてごらんよ。前者は龍(飛)の活躍が多く、後者は角(馬)の活躍が多いのがわかる。ということは、好みというものは色に出にけりということではないのかな。

 お茶にしませんかが、お茶どころではなくなってしまった。ひとの好みをあれこれ詮索するのは元来好きじゃない。書いていて、しまったと思ったけれど、後の祭り。しかも今月は締切が早いときている。果たして間に合うものやら、間に合わないものやら。折しもTel。森敏宏氏の最速かしらん。

 テレビドラマを見ていたら、主人公の妻の台詞にこんなのがあった。「あたし、やっとあなたと同じ夢見てる」

 昭和に生き、平成に生き、そして亨保にも生きる。私と同じ夢を見ている人はいないものかねえ。

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駒場和男さんの煙詰である「父帰る」は、最初の図面で5五にいた後手玉が、最後にはまた5五に戻り”都詰め(5五で玉が詰む)”かつ”煙詰”になるという、驚愕の作品。

父帰る・・・思い出の煙詰め③  (あーうぃ だにぇっと)

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「あたり前田のクラッカー」は、大阪府堺市に本社を置く前田製菓の1960年代のテレビCMのコピー。

1962年からTBS系(制作は朝日放送)で放映されていた「てなもんや三度笠」の番組内で、主演の藤田まことさんが「あたり前田のクラッカー」と言うのが大ヒットして、日本中このフレーズを知らない人はいないほどだった。

もちろん、現在も「前田のクラッカー」は販売されている。

昔ながらの製法にこだわり、どこか懐かしい味がする名品と言われる。 原料の小麦本来の味や香りを生かす工夫がされたあっさり塩味のクラッカーだ。

野菜クラッカー、五穀たっぷりクラッカー、黒ごまソフトクラッカーなどの種類もある。

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駒場和男さんは寡作であるが、そのぶん凄い作品ばかりと言われる。

2006年に、駒場和男氏による初の詰将棋作品集が出版されている。「無双」、「図巧」と同じく全格玉配置(初形の玉位置が1一から9九まですべてあるもの)となっている。

ゆめまぼろし百番ゆめまぼろし百番
価格:¥ 3,990(税込)
発売日:2006-06
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