近代将棋1994年1月号、「戌年の将棋まつり」より。羽生善治五冠(当時)の「年男になって」。
平成6年は犬年。いわゆる私にとっては年男になるわけだが、あまりピンと来ない。
基本的には記念日的なものにはうとい方なので、誕生日や正月やお盆やクリスマスや国民の休日など一般の人と比較したらあまり気にしない方だろう。
年男だからといって特別に目標を立てたりするつもりはなく、無理矢理それを作ったとしても、どうせ三日坊主で終わってしまうだろう。それに、~だから頑張ろうというのはそれまで適当になっていたという感じを受けるし。先日、棋聖戦の就位式は産経新聞社の粋なはからいで私の誕生日にやって頂いた。
何年はたって、思い出す時には都合が良いかもしれない。
棋士になって変わってしまったことは定期的に出社することが無いので曜日の概念がなくなってしまうことだ。
普段、生活していて何曜日か解らないことはしばしばあるし、下手をすると何月何日か忘れてしまうこともある。
昔、誰かが”棋士は毎日が日曜日”と言っていたが確かに一理あると思う。
それだけ自由な時間がたくさんあるのかもしれない。
世間では会社、学校の完全週休2日制の実施を求めて久しいが、将棋界ではすでにそれ以上(?)いっているかもしれない。
近代将棋の読者に改めて書くまでもないかもしれないが、余暇を過ごすなら何と言っても将棋が良いと思う。
頭の体操にはなるし、少なくとも対局中は世俗のことは忘れられるし。
棋士の場合は将棋で気分転換する訳には行かないので必然的に他のものになる。
私にとってそれは”水泳”で、少なくとも泳いでいる間は頭が空っぽの状態になる。
もし、余計な事を考えると溺れてしまうだろう。棋士の悲しい習慣でいつでもどこでも考えることが出来るので、気分転換の方法も肉体的か精神的にハードなものを選択する人が多いようだ。
そんなことを考えると棋士という職業も楽に思えてそうでもないのかもしれない。
何か干支とは全く関係のない話ばかりになってしまったが、それについて気になっていることがある。
確か、”まんが日本昔話”か何かでやっていたのだが、神様が動物たちに競争させて干支の順番を決める話で、足が遅い牛は一番早く出発してトップを維持していたが、ゴール前で背中に乗っていたネズミがダッシュして一着、二着が牛というように話が続く。
ちなみに犬は十一番目。危なかった。
惜しくも干支を逃した十三番目はカエルだったと思う。誰か詳しくこの話を知っていたら私に教えて下さい。
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たしかに、別のことを考える余裕がある趣味を選んでしまうと、いつも将棋のことが脳裏に浮かんでしまって、気分転換にはならなくなる。
競馬・競輪・競艇やチェス・バックギャモンなどのボードゲームを趣味とする棋士が多いのは、”別のことを考える余裕がない趣味”という観点からすると、とてもよく理解ができる。
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Wikipediaなどの情報を総合すると、干支の順番が決まった経緯には次のような説がある。
天上の玉皇大帝(お釈迦様という話もある)が、動物たちに「元旦に神殿へ早く来たもの12匹に、一年ずつ順番にその年を守ってもらい、これを干支とする」というお触れを出した。
その結果、
- 牛は足が遅いので早めに行ったものの、一番乗りしたのは牛の背中に乗っていたネズミだった。出し抜かれた牛は、やるせない気持ちを「もおーーぅ」という鳴き声に託した。
- 鳥が猿と犬の間になったのは仲の悪い両者を仲裁していたため
- 猪が本当は一番最初に神殿に着いたが、猪突猛進で神殿を通り抜けてしまい、気がついて戻ってきた時には12位だった
- ネズミは猫に挨拶に行く日を尋ねられた際に嘘をつき、実際よりも一日遅い日を教えたため、猫は干支に入ることができなかった。それを根に持った猫はネズミを追いかけるようになった
- 猫はネズミの話を信じて一日遅れて挨拶に行ったため、神様から「今まで寝ていたのか。顔を洗って出直して来い」と言われ、それからよく顔を洗うようになった。
- 13番目の動物が、カエルやイタチや鹿であったという説もある
動物にも、いろいろと難しいことがあるようだ。