将棋世界1991年10月号、青島たつひこさん(鈴木宏彦さん)の第4期竜王戦本戦トーナメントレポート「意欲の4人、バンコクをにらむ」より。
話は6月20日、2ヵ月以上前の大阪に飛ぶ。この日ぶらりと関西将棋会館に顔を見せた谷川三冠王が、こんなことを言っていた。
「王位戦、王座戦、竜王戦。不思議なことに、棋戦によって挑戦者争いのメンバーががらりと違うんですよね」
その時点で挑戦者争いにからんでいた棋士。
王位戦は中田宏樹、郷田真隆、佐藤康光、小林健二。
王座戦は中原誠、米長邦雄、南芳一、福崎文吾。
そして竜王戦は本戦出場を決めていたのが、島朗、石田和雄、児玉孝一、森下卓、日浦一郎、小林宏、畠山鎮・・・。
王位戦は新鋭中心の挑戦者争い。王座戦は老舗・強豪中心の挑戦者争い。そして竜王戦は新旧上下なんでもありという田舎の雑貨屋風挑戦者争い。
さすがの谷川三冠王も、竜王戦に関しては「誰が挑戦者になるか予想がつかない」という意味のことを言っていた。
竜王戦の棋戦システムの一番の特徴は中堅、下位クラスの棋士でも、「同クラスの相手に3連勝から5連勝すれば高額対局料の出る本戦に出場できる」という点だ。本戦も、一発勝負のトーナメント方式だから、実力はもちろんのことだが、その時の勢いや精神状態が大きくものを言ってくる。順位戦の頂点であるA級順位戦だけで挑戦者を争う名人戦を20年物国債的タイトル戦とするなら、竜王戦はさしずめサマージャンボ宝くじの味である。
—–
直近の各棋戦の挑戦者争いにからんだ棋士を見てみたい。(準決勝以上)
棋聖戦
渡辺明竜王、郷田真隆九段、久保利明九段、中村太地六段
王位戦(リーグ戦各組2位同率以上)
佐藤康光九段、藤井猛九段 、行方尚史八段、松尾歩七段、澤田真吾五段
王座戦
渡辺明竜王、森内俊之名人、郷田真隆九段、中村太地六段
竜王戦
森内俊之名人、羽生善治三冠、佐藤康光九段、郷田真隆九段
王将戦(今期リーグ戦)
羽生善治三冠、谷川浩司九段、佐藤康光九段、郷田真隆九段、深浦康市九段、久保利明九段、豊島将之七段
棋王戦(今期)
羽生善治三冠、郷田真隆九段、屋敷伸之九段、三浦弘行九段、山崎隆之八段、永瀬拓矢五段、
こうやって見てみると、1991年の頃とは違って、棋戦によって挑戦者争いのメンバーががらりと違うということはほとんどなく、各棋戦ともタイトル保持者・タイトル経験者を中心とした鉄板のタイトル挑戦争いが行われていることが分かる。
挑戦争いには、名人戦を除く6棋戦中、郷田真隆九段が5棋戦、佐藤康光九段が3棋戦でからんでいる。森内俊之名人と久保利明九段は2棋戦。
羽生善治三冠は、名人戦を除くタイトルを保持していない3棋戦中3棋戦で挑戦争いに加わっており、挑戦争い関与率100%。
渡辺明竜王は、名人戦を除くタイトルを保持していない3棋戦中2棋戦で挑戦争い。ただし王位戦挑戦者決定リーグ入りしているので、実質上は3棋戦中3棋戦で挑戦争いに加わったと見て良いだろう。
タイトル挑戦までの道程がいかに大変かが実感できる。
—–
そういった意味でも、中村太地六段が2棋戦で挑戦争いに関わっているのは、本当にものすごいことだと言える。
—–
そのような中で異彩を放っているのが王位戦。
挑戦者決定リーグ戦では、上記王位戦の項のメンバー以外に丸山忠久九段、広瀬章人七段 、宮田敦史六段、佐々木慎六段、村山慈明六段、大石直嗣五段がリーグ入りを果たしており、20代から30代前半の棋士の比率が高い。
王位戦は、挑戦者決定リーグ戦と予選の構成となっており、4連勝または5連勝するとリーグ入りできる。予選からリーグ入りできるのは8人。
他の棋戦の、
棋聖戦
1次予選突破まで3連勝または4連勝
2次予選突破まで2連勝または3連勝
挑戦者決定トーナメント、挑戦まで4連勝
王座戦
1次予選突破まで4連勝または5連勝
2次予選突破まで2連勝または3連勝
挑戦者決定トーナメント、挑戦まで4連勝
竜王戦
決勝トーナメント進出まで、4組以下は5連勝、3組は4連勝、2組は3連勝、1組は3勝1敗以上。
決勝トーナメント、挑戦者決定三番勝負まで1勝(1組優勝)~5連勝(5組優勝、6組優勝)
王将戦
1次予選突破まで3連勝または4連勝
2次予選突破まで2連勝または3連勝
→挑戦者決定リーグ戦へ(リーグ入りできるのは3人)
棋王戦
予選突破まで4連勝または5連勝
挑戦者決定トーナメント、挑戦まで5~7連勝または敗者復活戦経由で5勝1敗~7勝1敗
に比べ、王位戦は今も昔も、若手が挑戦争いに関わることができる可能性が相対的に高い棋戦ということになる。
逆にいえば、他の棋戦は前期に良い成績をあげていれば2次予選からの出場やシードなど前期の戦績が反映されるが、王位戦はリーグ戦から陥落すると(リーグ各組6人中4人が落ちる)、一からの出直しになってしまうのが厳しいところ。
—–
いずれにしても、タイトル戦で挑戦者になるのは、非常に大変だと、あらためて思う。