将棋世界1992年12月号、鹿野圭生女流1級(当時)のJT将棋日本シリーズ’92女流観戦記「札幌大会の打ち明け話」より。
そしてバスに乗り換えて、大阪空港へ到着。後はホイホイのホイで、札幌行きの飛行機に乗り込めた。出不精(デブ性じゃないよ)な私だが、女流棋士になってからはだいぶ旅慣れてきている。
オヤッ、前の席に座っているのは、浩ちゃんじゃなくて、谷川先生様々じゃぁあーりませんか。"こりゃどうも"じゃなくて”おはようございます”。ちょっといつもより元気がなさそう・・・。なるほどなるほど、おととい新婚旅行から、帰ってきたばかり。さもありなん。あ、左手の薬指にはキラリと輝く結婚指輪。よろしいなぁ、新婚は・・・(私ゃ、おじんか!!)。
機内では、谷川先生持参の雑誌の中の漫画で大ウケ。だって、本名大山誠っていうスモウ取りが、美女に”マコリンって呼んでもいい?”なーんて迫られてんねんもん。キャイキャイ。
(中略)
おやまぁ、もう、千歳空港。早いね、飛行機は。
しかし、ここから札幌までがタクシーで1時間と聞いて、ウンザリ。道は限りなくまっすぐで130キロぐらい飛ばしてるのに、なんの違和感もない。ウーン、さすが北海道。
車中では、谷川先生、またもや、おもしろいネタを提供して下さった。
まずは野球の話で、阪神ファンを公言している谷川先生の所へ取材の話が舞い込んだ。阪神が優勝した場合のコメントである。”延々、1時間以上時間をさいてお話したものの、優勝しなかったら、私の苦労はどうなるんでしょう”と言っている。その夜、ヤクルトの優勝が決定した。かわいそうな谷川先生。お疲れ様でした。
そして将棋の話がまたおもしろい。
”実は私、1週間駒を触ってないんですけど”とおっしゃるのだ。確かに、1週間前といえば結婚式の前日。そんな暇はなさそうだ。”ヘェー、駒持ったらポロッと落としたりして・・・”などと私がからかうと、”駒の並べ方忘れてたりして・・・ンな訳ないって・・・”と、自分でボケて、自分でつっこんでおられた。さすが、関西人。ヒューヒュー。しかも、その後、”しまった、ネタを提供してしもた”と反省までしちゃう所がごっついかわいい谷川先生である。
長いと思っていた1時間だが、話のネタも尽きぬ内に、ホテルに到着である。
(以下略)
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自分でボケて自分でつっこむ芸は、明石家さんまさんが得意としている。
「自虐+それに対するつっこみ」が基本形。
森信雄五段(当時)と神吉宏充五段(当時)の会話でも、森信雄五段が自分でボケて自分でつっこんだ事例があるが、その文献がすぐには出てこないのが残念だ。
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この一人ボケツッコミは関西ならではの芸で、関東以北の日常会話で聞くことは稀なことだ。
ボケの後ワンテンポ置いて、聞き手にツッコミを想像させてから、そこからずれたツッコミをするような高等戦術もあるらしく、この道は奥が深い。
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三浦弘行九段の一人ボケツッコミに近い会話を聞いたことがある。
とても面白かった。
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三浦九段は将棋まつりなどで、兄弟子の藤井猛九段からいろいろといじられることが多い。
藤井九段からの藤井流のツッコミがあった時こそ、一人ボケツッコミをやるチャンス。
公開の場での三浦九段の一人ボケツッコミも聞いてみたいものだ。