関西期待の星、久保利明四段(当時)

近代将棋1993年9月号、武者野勝巳五段(当時)の「プロ棋界最前線」より。

 久保利明四段は兵庫県出身、淡路八段門下の17歳。現在での最年少棋士で「若ければ強い」というのが昨今のプロ棋界のセオリーだから、それだけで楽しみな存在だということが窺われよう。

 実は前期の三段リーグの始まる前、昇級の一議席は久保で仕方がないという声を多く聞いた。その前のリーグで次点だったからこういう声が起こるのかと思っていたのだが、本命選手が当然のように抜け出して、当然のように昇級したのには正直驚いた。三段のように差のない者が揃っている大所帯のリーグで、本命選手がマークされながら勝ち抜くことは、意外と難しいことなのである。

 その期待に違わず、新四段としてデビューしてからの成績は8勝3敗と立派なもの。そろそろ村山以来聞かれなかった「関西期待の星」という声が上がってきたようだ。振り飛車一辺倒の将棋で、終盤の強さに定評がある。

 1図はベテラン桐山九段との一戦で、△6七銀の飛車角両取りにどう対応していいか迷ってしまう局面だが、

photo_5

 久保はノータイムで▲1五歩と突き、以下△5六銀成▲1三角打△同香▲同角成まで、あっという間に寄せきってしまった。

photo_6

 棋譜を並べていた私は狐に摘まれたようだったが、その後しばらくして後手玉が詰みであることを発見したのだ。

 新人としてのデビュー時に、終盤の強い振り飛車党というのは、谷川、福崎、脇と続く関西の伝統でもあるようだ。順調な棋士としてのスタートを切り、これでますます期待の星という声が高まるだろうし、この気持の張りは久保にとってもプラスに働くに違いない。

—–

投了図で後手玉が詰んでいるなんて信じられないが、よくよく考えてみると、

△1三同玉の後の▲1一飛が決め手のようだ。

▲1一飛に対して、

(1)△2二玉は▲1二金で詰み。

(2)△2四玉は▲1三銀で詰み。

(3)△1三角の合駒なら、

▲1四歩△2二玉▲1三歩成△1一玉▲1二と で詰み。

(4)△1二銀の合駒なら、

▲1四歩△2二玉▲1三歩成△同銀▲1二金 または

▲1四歩△2二玉▲1三歩成△1一玉▲1二と で詰み。

(5)△1二金の合駒なら、

▲1四歩△2二玉▲1三歩成△同金▲1三香成△1一玉▲1二金 または

▲1四歩△2二玉▲1三歩成△1一玉▲1二と で詰み。

(△1二飛の合駒の場合も同様)

私にとっては、言われてみて、物凄く考えてみて、それでようやく見つかる詰み。

ましてや、1図から▲1五歩と突いた形が詰めろとは、100回言われても気がつかないと思う。

「終盤が強い」とはこういうことを言うのだと実感できる事例だ。

—–

久保利明八段(当時)は、湯川博士さんの「振り飛車党列伝」の中で、

 詰将棋の練習は。 

 「若いころ、無双と図巧(伊藤宗看・看寿の作で難解な問題が100題ずつ)を解きました。駒を動かさずに解く練習をしました。だいたい正確に頭に駒が浮かんだと思います」

 今でも、同じ方法でやっている。

 「ええ。詰将棋は実戦のとき、数十手先を正確に思い浮かべるためにやっています。今はだいたい実戦形の17手前後のものを解いています」

 中編の詰将棋を、駒に触れずに解くのはたいへんでしょうね。盤を睨んで解くのですか。

 「いや、盤に並べないんです。図面を見て暗記したら、もう見ない。すべて頭の中で解かないと練習にならないのです」

とインタビューで答えている。

そのように終盤力や読みの力を徹底的に鍛えた若い頃の久保利明九段だが、

 「三段リーグに入ると、東京の人と当たるようになるのですが、ちょっと将棋が違うんです。関西奨励会ではそれまで、終盤で競り合って勝ったり逆転勝ちで拾ったり。ところが東京のほうは、序盤からシビアなんです。勉強になりました。それに東京はいろいろな棋士がいるので、四段になったら、東京へ行こうと決めていたんです」

とも語っており、プロ将棋がいかに大変なものであるかを痛感させられる。

コメントを残す